「騎士って書いてナイトさんかぁ。オラオラっぽい人だって、晴さんが言ってたからちょっと怖いなぁ」
私の勝手なイメージでは、オラオラ系のホストは姫の扱いが雑というイメージがある。
例えばお金がないのにシャンパンを無理矢理入れさせたり、姫にDVまでするホストもいるらしい……。
ちなみに、私の担当もオラオラ系だった。オラオラ系は普段はオラオラしているけど、ふとした時に見せる優しさに、姫はキュンとしてしまうのだ。
(高額の売掛(※借金のこと)なんてさせられたらどうしよう)
私は内心怖かった。
もし見た瞬間怖い人だったら、すぐ「チェンジで!」とお願いしよう。私はそう心に決めていた。
次の瞬間、ドアが勢いよく開き、豪快な笑い声と共に、いかにもオラオラ系のホストが部屋に入って来る。
その恵まれた体系と、派手な服装に思わず目を見張った。
騎士さんはよく見かけるキジトラらしく、三角の耳がピンと立ち、長い尻尾がまるで風に吹かれたかのように揺れている。
キジトラは、日本で一番多く飼われている柄の猫らしい。
「お待たせい! 今夜はオレが姫を最高の時間に導くからな!」
そう力強い声で叫び、私の隣に無遠慮に座り込んだ。
(これは完全にオラオラ系だ。好きになっちゃわないように気を付けないと)
どうしても自分はオラオラ系が好きなんだと思い知らされる。
でも騎士さんの顔を恐る恐る見上げると、人懐こい笑みを浮かべていた。
「短い時間だけど、よろしく頼むな」
そう言いながら照れくさうに笑う騎士さんは、オラオラ系というよりも、頼りになるお兄ちゃんタイプに見えた。
(よかった……)
私の体から、一気に力が抜けていった。
すると、騎士さんが突然私の顔を覗き込んできたものだから、一瞬呼吸が止まってしまう。
騎士さんって、凄くイケメンなんだ……。私の心臓が悲鳴を上げるように高鳴りだした。
「なぁ、お姫。景気づけに、ここで一つクイズを出してもいいか?」
「クイズですか?」
「そうだ! とびっきり面白いクイズを出してやるよ」
騎士さんの無邪気な笑顔を見ていると、今まで塞ぎ込んでいた気持ちが、スッと楽になるから不思議だ。私は笑顔で「わかりました」と騎士さんの誘いに応じた。
一体どんなクイズだろうか? なんだかワクワクしてしまう。
「じゃあ問題な? オレはキジトラの猫だけど、一般的に言われている、キジトラの猫の性格は次のうちどれだと思う?」
A.甘えん坊
B.活発
C.穏やか
「さて、どれだと思う?」
騎士さんからどんな問題を出されるのかと思ったら、なんだ、こんなクイズか……。
こんなの簡単よ! だって今までの騎士さんを見ていれば、一目瞭然。回答がわかった私は、嬉しくなってしまった。
「キジトラの猫の性格は、Bの活発です」
「よし、正解だ! キジトラの猫は活発で遊ぶことが大好きなんだ。人生、笑いながら酒を飲んでいれば何とかなる! ってな」
「本当ですね! 騎士さんを見ているとそう感じます」
「でも、キジトラの雄は単純で甘えん坊なところもある。こんなオレだが、仲良くしてくれよな」
「はい」
騎士さんの明るい雰囲気に、つい先程まで塞ぎ込んでいた自分が、馬鹿らしくなってきてしまう。
もしかしたら、私の緊張をやわらげるために、わざわざこんなクイズを出してくれたのかもしれない。
「何か飲む? グラス空っぽだぜ?」
「あー、じゃあオレンジジュースで」
「OK。オレンジジュースなんて可愛いな」
騎士さんは気が利くタイプらしい。私の空っぽになっていたグラスを見るなり、声をかけてくれる。
それから、新しいグラスにオレンジジュースを注いでくれた。
(騎士さん、優しい……)
その見た目と、繊細な心遣いのギャップに、私は早くもキュンッとしてしまった。
「姫、いきなりで悪いんだけど、オレにご褒美くれるかい? それを食べながら一緒に話そうよ」
「え? 騎士さんのご褒美ですか?」
「勿論、覚えてくれてるよな?」
「も、勿論ですよ!」
「あははは! じゃあ次の三つから選んでくれよ」
A.煮干し
B.ビーフジャーキー
C.高級なカリカリ
「当然、どれが正解か分るよな?」
悪戯っ子のような顔をしながら、私の顔を覗き込んでくる。そんな挑発的な態度も、すごくかっこいい。
(結局私は、オラオラ系が好きなのかしら……)
ガックリ肩を落としてしまう。
それでも、私は騎士さんの好物をちゃんと覚えていた。
「騎士さんが好きなのは、Aの煮干しですよね?」
「おぉ? 大正解! 覚えててくれたんだな? ありがとよ」
騎士さんは、私に向かって微笑む。その時、サビ柄の尻尾もユラユラと大きく揺れた。
その笑顔に、いちいちキュンキュンしてしまう自分が本当に情けない。
でも、騎士さんは無理矢理、高額なシャンパンを入れさせたり、売掛をさせたりはしないだろう。
だって、好物が煮干しって言うくらいなんだから。
駄目、可愛くてつい口角が上がっちゃう。
「その硝子の皿に煮干しがあるから、五匹とってくれよ?」
「え? これですか?」
「そう。それを、その皿に載せてくれ」
「あ、はい」
騎士さんに言われるがまま動いてしまったけれど、これって姫がやることなの? でも、騎士さんが言うと、嫌味っぽく聞こえないから不思議だ。
「五匹あるから、三匹あげるよ」
「え? でも騎士さんのじゃ……」
「いいんだよ。これ人間も食えるやつだから食ってみ? 超美味いぜ?」
「じゃあ、遠慮なくいただきます」
「おう。食え食え!」
皿に載った煮干しを一匹掴んで口に放り込む。
その煮干しは普段私たちがスーパーで見かけるような煮干しではなく、大きくて立派なものだった。
普段食べ慣れていないから恐る恐る咀嚼すると「嘘、すごく美味しい……」という言葉が、思わず口から零れ出た。
その煮干しは香ばしくて、とても甘い。
あまりにも美味しくて、私はもう一匹口の中に放り込んだ。
「ようやく笑ったな?」
「え?」
私は騎士さんの言葉に思わず顔を上げる。視線の先には、優しく微笑む騎士さんがいた。
「目の周りが赤いから、もしかしたら泣いてたんだろう? それでKitty Catに辿り着いた。違うか?」
「はい……。その通りです」
「あははは! そうだと思った」
騎士さんは笑っているけれど、心配そうな顔をしながら私のことを覗き込んでくる。
「どうせ担当と喧嘩でもしたんだろう?」
「……はい。でもどうしてわかったんですか?」
「あははは! そりゃあ、この街にいる女は、大体みんなそんな顔をしてるからな」
騎士さんが豪快に笑うと、担当とのことなんてどうでもよくなってしまうから不思議だ。
「ほら、オレの分もやるから食いな」
「でも、そしたら騎士さんの分が……」
「そんなのどうでもいいの。オレは姫が笑ってくれたら、それだけで十分嬉しいから」
「騎士さん……」
「だから、そんな女を泣かせるような担当のことで、もう泣くな。わかったか?」
「はい」
「よし、いい子だ」
そう言いながら、私の頭を撫でてくれる。
性格はガサツなくせに、私に触れる手はひどく優しい。
煮干しを噛み締めながら、また泣きそうになってしまう。
それは担当のことを思い出したからではない。騎士さんの優しさが嬉しかったのだ。
その時、遠くからチリンチリンとベルが鳴る音がする。それを聞いた騎士さんが、「あー、もう時間かぁ」と残念そうに呟いた。
「もう十分経ったみたいだな。オレとの時間はこれでお仕舞だ」
「え? もう? 私、もっと騎士さんと一緒にいたいです!」
「それは、オレも同じだよ。あ、そうだ。その残りの煮干しもやるよ。それ食って元気出せよな! それに、もう泣くんじゃねぇぞ」
「ありがとうございます」
その瞬間、騎士さんの顔から笑みが消える。
初めて見る騎士さんの真剣な表情に、私はストンと、恋に落ちた。
そして急に肩を抱かれ、私の心臓がドキンドキンとうるさいくらいに高鳴り出す。
騎士さんの腕の中は、とても温かかった。尻尾を私の体に巻き付けてくれるのが、堪らなく嬉しい。
「オレを『送り』に選んでよ。そしたら、大人の男っていうものをみせてやるからさ」
「大人の男……」
「そう。オレは担当だった男みたいに、姫のことを泣かしたりなんてしない。心の底から大事にするからさ」
「騎士さん……」
「大事にするし、もう絶対に泣かせない。約束するから」
「……はい……」
「だから、安心してオレに身を任せてよ。じゃあな、可愛いお姫様」
騎士さんはにっこり微笑んだ後、「またな」とひらひらと手を振りながら、ドアの向こうへと消えていってしまった。
最初は怖かった騎士さん。でもそれは、私の勝手な思い込みだった。
「いい子だ」と頭を撫でられた瞬間、彼のオラオラとしたイメージが溶けていき、優しさと温かさが溢れ出してきたのを感じる。
私はその優しさに、キュンとしてしまった。
では姫、この後はどうされますか?
1.他のホストには会わずこのまま帰る⇒気をつけてお帰りくださいませ。またのお越し心よりをお待ちしております。
2.他のホストには会わず、騎士を送りに指名する⇒17ページに進んでください
3.次のページの蓮と話をする⇒9ページに進んでください。
4.もう一度会うホストを決めたい⇒猫本のページへお戻りください。
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