「蒼い月って書いて、アイル君か……。黒猫って、日本では不吉とされているけれど、どうなんだろう? あ、しかも私より年下! 可愛い子だといいなぁ」
Kitty Catに来てから、私の口角は上がりっぱなしだ。今も電車に乗って喜んでいる子どものように、足をパタパタとさせている。
「蒼月君、まだかなぁ」
その時、コンコンとノックをする音が聞こえてきた。
「失礼しまぁす!」
ドアが緩やかに開き、笑顔の眩しい可愛い男の子が部屋に入ってきた。
その笑顔はまるで太陽の光のように部屋中を明るく照らし、私の心も温かく包み込んでくれた。彼の存在だけで、周りの空気が一変し、緊張感が吹き飛んでしまう。
「こんにちは、お姉さん。宅急便のお届けに参りました」
「宅急便? ふふふっ。黒猫さんだから? 蒼月君って面白い子ですね?」
「よかった、笑ってくれて」
そう微笑む蒼月君の笑顔はとても人懐こく見える。確か黒猫も人懐こいのよね……。
黒くてピンと立った三角の耳と、ユラユラと揺れる尻尾がとても可愛い。
「お隣、失礼しますね~」
隣に気軽に座られても、なぜかまったく不快に感じないのが不思議だ。 彼は、人を惹きつける魅力を持っているように感じられる。
それから、蒼月君は私の顔を覗き込むと、まるで子どもが悪戯を思い付いた時のように笑った。
「姫、ここで一つクイズを出してもいいですか?」
「クイズですか?」
「はい!」
蒼月君の無邪気な笑顔を見ていると、私まで楽しくなってしまう。私は笑顔で「いいですよ」と蒼月君の誘いに応じた。
だって楽しそうなんだもの。
一体どんなクイズだろうか? と、なんだかワクワクしてしまう。
「では問題です。僕は黒猫なのですが、一般的に言われている、黒猫の性格は次のうちどれでしょう?」
A.甘えん坊
B.気が強い
C.クール
「さてどぉれだ?」
蒼月君からどんなクイズを出されると思ったら、なんだ、こんなクイズか……。
こんなの簡単よ! だって今までの蒼月君を見ていれば、一目瞭然だもの。私は自信満々に答えたわ。
「黒猫の性格は、Aの甘えん坊です」
「わぁ! 大正解です。お姉さん凄いですね!」
「だって、今までの蒼月君を見ていれば、こんなクイズ簡単ですよ」
「バレてたか~! 黒猫は、よく人懐こいとか、呑気とか、穏やかだって言われています。こんな僕ですが、仲良くしてくださいね」
「はい」
蒼月君の穏やかな雰囲気に、自分の尖った気持ちが少しずつ丸くなっていくのを感じる。
もしかしたら、私の緊張をやわらげるために、わざわざこんなクイズをしてくれたのかもしれない。
蒼月君は艶々と黒光りする黒髪と、黒く長い尻尾をしている。夜空みたいに真っ黒な毛――。
夜に蒼月君とかくれんぼをしたら、きっと見つからないでしょうね。そう考えると可笑しくなってくる。
「あれ?」
私はその時、ふと蒼月君の髪に視線が止まる。右耳の上あたりに、白い毛が混じっていたのだ。
そんな私の反応に気付いたのか、蒼月君がクスクスと笑った。
「あ、白い毛? よく気が付きましたね? 時々黒猫に白い毛が混じっているでしょう? そのことを『エンジェルマーク』っていうんです。神様が触れた跡、幸運の印なんて言われてるんですよ」
「へぇ。そうなんだ。知らなかったです」
「だから、これは僕の自慢なんです」
「とっても可愛いですね!」
「ありがとうございます。姫だって、とっても可愛らしいですよ」
「え?」
突然の蒼月君の言葉に、心臓がトクンと一度大きく跳ねる。
こんな言葉は、ホストのリップサービスだってわかっているけれど、「可愛い」なんて言われると嬉しくなってしまう。特にイケメンに言われたら……。
「そうだ、姫。僕の好きな物をおねだりしてもいい?」
「蒼月さんの好きな物ですか?」
「うん。姫が僕の好物を覚えていてくれたら嬉しいなぁって……。 次の三つの中から選んでね」
「うーん、確か蒼月君の好物は……」
A.通常のねこじゃらし
B.ビーフジャーキー
C.チキンジャーキー
「勿論覚えてくれてるよね?」
蒼月君はそう言うと、目をウルウルさせながら、上目遣いで私を見つめてくる。
(さりげなくタメ口になったり、自然と距離を詰めてくるあたり、やり手だなぁ)
蒼月君は、もしかしたら女の子慣れしているのかもしれない。女の子の弱い部分を上手に突いてくるイメージだ。
でも、それを「可愛い!」と思ってしまうあたり、私も彼の手の平の上で上手に転がされてしまっているのだ。
「蒼月君が好きなのは、Bのビーフジャーキーだよね?」
「え!? 覚えててくれたの? 嬉しいなぁ」
蒼月君は満面の笑みを浮かべながら、私に向かって微笑んだ。
三角の耳がピョコピョコと動いて、尻尾がユラユラと大きく揺れている。
(蒼月君、嬉しいんだ)
その笑顔に、いちいちキュンキュンしてしまう自分が本当に情けない。
「じゃあさ、そのグラスにビーフジャーキーがあるでしょう? それを取ってくれない?」
「え? これかな?」
「うん、それ」
私は綺麗なグラスに刺してあるビーフジャーキーを手に取り、「はい、どうぞ」と蒼月君に手渡そうとしたとき――。
「あーん、してよ」
「え?」
「姫が『あーん』してくれたビーフジャーキーが食べたいの」
「はい?」
私が手に持ったビーフジャーキーを持ったまま固まっていると、蒼月君が拗ねた顔をする。
その顔すらかっこよくて、私はもう彼の下僕に成り下がるしかない。
「よし!」
私は心を決めてジャーキーを食べやすいように小さく千切る。
蒼君は大きく口を開けて、目を閉じていたから、そっとその口にビーフジャーキーを入れてあげる。
イケメンに「あーん」なんてしたことのない私は、情けないことに手が震えてしまった。
ジャーキーを口に入れてあげると「美味しい!」って蒼月君がニコニコする。それが可愛くて、もう一つだけジャーキーを口に入れてあげた。
「姫が食べさせてくれるから、こんなにも美味しいんだね」
「え、あ、うん……」
「ありがとう」
その瞬間、彼が纏う雰囲気が変わった気がした。
今まで無邪気な子どもに見えたのに、今は大人の男性に見える……。
その瞳には、何かを隠したような謎めいた光が宿っていた。
彼は静かに体を乗り出し、指先でソファーをなぞるように体を寄せてくる。
その仕草には、小悪魔のような軽やかさと、何かを企んでいるような不気味さが混じっていた。
(ヤバイ、捕まる……)
そう思った時――。
遠くからチリンチリンとベルが鳴る音がする。それを聞いた蒼月君が、「あーあ」と寂しそうに呟いた。
「もう十分経ったみたいだね。僕との時間はこれでお仕舞だよ」
「え? もう? 私、もっと蒼月君と一緒にいたかった」
「それは、僕も同じだよ。超つまんない。あ、そうだ。その残りのジャーキーあげるよ。人間が食べても大丈夫だし、美味しいから」
「本当に? ありがとう!」
その瞬間、蒼月君の顔から笑みが消える。
綺麗な瞳に吸い込まれそうになって……。そのまま少しの間だけ蒼月君と見つめ合った。これじゃあ、本当に蒼月君の瞳に吸い込まれてしまいそう。
そして急に手を握られて、私の心臓が大きく跳ね上がる。
蒼月君の手は思ったより大きくて、とても温かかった。
「僕を『送り』に選んでよ。そしたら僕の本当の姿を見せてあげるから」
「蒼月君の、本当の姿……」
「そう。黒猫のミステリアスな部分を全部……。黒猫は人懐こい性格をしているし、心を許した相手には甘えん坊だから。さっき、クイズで出したでしょう?」
「蒼月君も、やっぱり甘えん坊なんだね?」
「うん、超甘えん坊だよ、だからもう一度姫に甘えたい。じゃあ、またね」
蒼月さんはにっこり微笑んだ後、ひらひらと手を振りながら、ドアの向こうへと消えていってしまった。
では姫、この後はどうされますか?
1.他のホストには会わずこのまま帰る⇒気をつけてお帰りください。またのお越しを心よりお待ちしております。
2.他のホストには会わず、蒼月を送りに指名する⇒16ページに進んでください
3.次のページの騎士と話をする⇒8ページに進んでください。
4.もう一度会うホストを決めたい⇒猫本のページへお戻りください。
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