転生したら、女神様の凡ミスに遭いました

王立学園の卒業パーティー。
学園の学びを終えた者たちの新たな門出を祝福する良き日。
しかし、会場を満たしているのは不穏な空気だった。

「偽りの聖女、アウリスよ! 貴様は己が聖女であると偽って、この国を魔物の脅威に晒した」

聖女アウリスは壇上から指を突きつけられ、断罪されていた。

「ここに宣言する! 私は今、この場を持って、アウリス・リネットとの婚約を破棄する!!」

観衆をぐるりと見回して、声高らかに叫んだのはこの国の王太子殿下だった。
陽光のごとき金髪に、強い意思を宿して輝く瞳。
すらりとした長身。
文句なしの美男子だ。
そんな殿下は憎々しげにアウリスを見つめる。

「アウリスよ、何か申し開きがあるのなら、最後に聞いてやらないでもない」

投げかけられたのは横柄な言葉。

「あるいは謝罪するつもりはあるか?」

そう告げた彼はアウリスの婚約者だった。
アウリス・リネットは転生者である。
小国、ルージュ王国の平民出身の聖女だ。
ピンクブロンドの髪はふわっとして、肩より長い。
瞳の色はエメラルドグリーン。
彼女は七歳の時、聖なる力を教会に見出だされ、聖女となった。
この国では、聖女は王族と婚礼を結ぶのが慣例である。
アウリスも聖女認定された後から、この国の王太子と婚約していた。
だが今、彼女は婚約破棄されようとしている。
その理由は――。

「意中の公爵令嬢と結ばれたいために、聖女である私を捨てた。今、思い返しても、ろくでもなかったわね」

ふわりと宙を回った私はぽつりとつぶやいた。
聖女アウリスを守護するはずの王太子は、彼女を捨てた。
だが、聖女を断罪するためには理由がいる。
そのために、この茶番のような断罪劇をしたのだろう。

えっ?
そう言うあなたは誰か、って?
ふふ……。
よくぞ、聞いてくれました。

「あ……申し遅れました」

マイクを手にした私は一つ息をつくと、カメラを向けている『テレビの精霊さん』に向かって恭しく一礼した。

「こんにちは。私は、異世界TVのアナウンサーを任された、星を司る大精霊のアウリス・クロエです。転生者ですよ。女神様にお願いされて、この転生の間で、異世界の状況を伝えております」

えっ?
アウリスが二人?
どういうことって?
それは、これからご説明させていただきますね。

「まずは最新ニュースから」

私の背後の画面には、不気味な魔王城が映し出された。

「この魔王城の主、魔王アウリス。先程、王太子殿下の話に出ていた魔物。ルージュ王国を魔物の脅威に晒したのは、魔王の私です」

アウリスが三人?
どうなっているの……って?
言いたいことは分かっています。
それでは詳しい事情を説明しますね。
私は丁重に一礼して、本題に入る。

「ここでネタばらし。実はですね。転生した時、女神様の不注意で、私の存在が分裂したんですよ」

目を閉じれば、まぶたの裏に苦い過去が浮かぶ。

不幸続きの残念転生。

思い返せば、それがすべての始まりだった。
事故に巻き込まれ、異世界に転生することになった高校一年生の私は、『アウリス』という新たな名で新たな人生を迎えようとしていた。
初めて、転生の間に来た時、強い光によって、目を覚ました私。
すると、目の前には黄金の髪にスカイブルーの瞳を持ち、神々しい衣装に身を包んだ絶世の美女が立っていた。
この世界の女神と名乗った彼女から、私は今の現状を聞かされたのだ。
そう……。
神様も、万能ではないということを。
転生者には転生の間で、異世界に行く前に望むスキルを与えられる。
年齢も、赤ちゃんから始めることもできるし、前世で亡くなった年齢から始めることもできる。
もちろん、前世の記憶は持ったまま。
だけど、私の場合、女神様の凡ミスで、ここに来た時に、私の存在が分裂してしまったらしい。

「ここには、11人のあなたがいます」

女神様は開口一番、あまりにも突拍子のないことを言ってきたのだ。
もちろん、その場にいた11人の私は、誰もが大混乱。
伝説の聖剣を使うことができる勇者の私。
強大無比な力を持っている魔王の私。
最強の聖魔法の使い手の聖女の私。
全能の力を持つ大精霊の私。
いろんな私が大パニックに陥った。
もちろん全員、前世は日本人の高校一年生だったという記憶を持っているし、現代知識チート状態。
しかも、みんな、規格外のスキルを持っている始末だった。

「このまま、あなたたちを異世界『アルトクラン』に送ると、世界のバランスが崩れる可能性がありますね。でも、きっと大丈夫! 人間の方は、赤ちゃんから始めてもらいますから!」

それに、とお気楽ご気楽結果オーライな女神様は、星の大精霊、アウリス・クロエに転生した私を、異世界TVのアナウンサーに任命した。
異世界『アルトクラン』の異変や情勢。
それらを、女神様に向けて伝える役目を私に与えたのだ。
これなら、問題が発生しても、すぐに対処できる。
女神様はそう考えたのだろう。
しかし、自分の凡ミスなのに、私にすべてを押しつけるのはどうだろうか。
非道な仕打ちだ。
あれから数年間。
みんな、それぞれ、異世界『アルトクラン』で新たな人生を歩んでいる。
だけど、私一人だけ、女神様のために、異世界TVのアナウンサーの仕事をしていた。
異世界『アルトクラン』の状況を見て回っているけれど、他のみんなみたいに、新たな人生を歩んでいない。
正直、現実に置いてきぼりにされたかのようだった。
いろんな感情が湧き上がって、あの日の出来事を思い出すたびに涙が出そう。
ひしひしとそう思っていると。

「その……星の大精霊、アウリス・クロエ様。今日の『アルトクラン』のお天気はどうなっていますか? 女神様が催促されていますが」

ふと我に返った。
カメラを向けている、テレビの精霊さんがおそるおそる声をかけてきたからだ。

「はいはい。天気予報の時間です。今日の『アルトクラン』は、全国的に晴れるところが多くなります」

自暴自棄になった私は精霊の力で感じ取った、今日の予報を女神様に伝える。

「ただ、一部地域は雨や雪になっておりますが、午後には止むと思われます」

その滾る感情は、不本意な現状を解消するための熱量へと変わった。
異世界TVのアナウンサーを任された星の大精霊という立場だけど、いつか私も、みんながいる『アルトクラン』に住んでみたいものだ。
星の大精霊だから、星の力を自由自在に操れるし、実体化もできる。
ふわふわ空を漂いながら、異世界を満喫できるはずだ。
想像を巡らせるのは楽しく、ああでもない、こうでもない、と吟味しながら、今日もまた、『アルトクラン』の状況を報道している。
いつか、異世界に住みたい。
でも、女神様への異世界報告があるからな。
なかなか難しい。
今のところ、特段の方法はなく、検討中である。

「うーん。誰か、私を召喚してくれないかな?」

召喚されれば、女神様も、私の異世界行きを止めないだろう。
狙いはやはり、異世界に行った自分たちだろうか。
しばし、良い気分で考えたところで、はたと気づく。

「そうよ! 聖女の私なら、私の……精霊の声を聞くことができるはずだわ! 召喚して契約もできるはず!」

そうと決まれば、話は早い。
私は踵を返し、肩の髪を払って、ふわふわと宙へと舞い上がった。

昨日までより、ちょっと春に近い今日。
聖女による大精霊召喚、すごく楽しみだ。
一気にワクワクしてくる。
異世界に行ったら、何をして過ごそうか?
アナウンサー兼レポーターとして、『世界のダンジョン特集』、『日本の料理お披露、異世界グルメ特集』など、現地取材したら、女神様も満足してくれるかもしれない。

新たな冒険の幕を開ける風が、私の背中を優しく押してくれた。

運命と理想は隣り合わせ。
これは10人の私と、星の大精霊の私、アウリス・クロエの規格外波乱万丈な異世界奮闘記である。