辺境伯はお犬様(聖女)を溺愛中!

 この森の向こうは隣国レイド国。
 この国から犬を奪った奴らだ。
 その国の紋章がついた派手な馬車に乗って、わざわざこの国にやってくるのは、厄介なあの女だけ。

「ルーク!」
 犬10頭に守られた馬車から降りてきた王女クリスティーナの登場にルークは苦笑した。
 
 真っ赤なドレスに眩しいほど派手な装飾品、ストレートの黒髪は腰まで長く、性格はキツくてワガママな幼馴染。

「何しに来た」
 ルークがジロッとクリスティーナを睨むと、抱きつこうと近づいたクリスティーナの足がピタリと止まった。
 
「まさか、……犬?」
 クリスティーナはルークの腕に抱かれた小さな茶色い生き物に嫌悪感をあらわにする。

「あぁ。女神の化身が現れた」
「女神の化身? は? 何を言っているの? そんなの一匹でなんとかなるわけないでしょう?」
 クリスティーナは扇子を広げながらルークを嘲笑った。

「早く私と結婚しましょう? そうすれば欲しいだけ犬をあげるわ」
「断る」
 さっさと帰れとルークは屋敷に向かって歩く。

「王女に対してなんと無礼な!」
「たかが辺境伯のくせに王女を無碍に扱うなんて」
「勝手に押しかけたのはそちらだろう」
 ふざけるなとルークは護衛を睨みつけた。

「……後悔するわよ、ルーク」
 クリスティーナはギリッと奥歯を鳴らしながら扇子をグッと握りしめる。

 ルークは振り返ることなく、屋敷の中に。

「……あの犬、始末しなさい」
「で、ですが、お犬様を大切にしないと天罰が、」
「騎士のくせに天罰を信じているの?」
 みっともないとクリスティーナは騎士に扇子を投げつけた。

「じゃあ、連れて来なさい。私が殺すから」
「……はい、クリスティーナ様」
 騎士は扇子を拾いながら目を伏せる。
 クリスティーナは馬車に乗りながら、絶対ルークと結婚してやると呟いた。