辺境伯はお犬様(聖女)を溺愛中!

「あぁ、お犬様、ありがとうございます。本当にありがとうございます」
 祈りでも捧げそうな雰囲気のおじさんにキャルは首を傾げる。

 キャルはルークにベッドから抱きかかえられ、窓から外の景色を見せられた。
 部屋の窓から見えるのは森と街。
 森の手前の方は普通の森で、奥の方は霧がかかったようにモヤモヤしている。

 ……なにかおかしいの?

「キャルのおかげだ」
 抱きかかえられたまま頭をグリグリ撫でられるけれど、どうして私のおかげ?
 
 よくわからないけれど、ルークが嬉しそうだからまぁいいか。
 キャルはまん丸の目をルークに向けながらペロッと舌を出した。
 
 
 豪華な朝食のあとは抱っこされてお散歩だった。

「キャウ?」
 散歩だよね?
 自分で歩いた方がよくない?

 ルークは黄色の紐が付けられた木の横を歩いていく。
 目印なのかな?
 この森って迷子になるの?

「……すごいな、瘴気の霧が晴れている」
 全然苦しくないとルークは驚きながら進んでいく。
 黄色の紐はいつの間にか赤い紐に。

「瘴気濃度が基準値以下か……」
 ルークは瘴気測定器を見ながら信じられないと呟いた。

 ここは瘴気濃度が危険なことを示す赤い紐の地域。
 5分も耐えられないはずなのに全く苦しくない。
 先代の犬、ドーベルマンのブルーノは半径3メートルだけ瘴気を避けることができた。

 だがキャルは違う。
 瘴気を避けるのではなく、まるで消し去っているかのようだ。
 その証拠に振り返れば、歩いてきた道の部分だけ瘴気がない。
 やはりキャルは女神の化身なのかもしれない。

 今まで行ったことがないほど奥へ進んだルークは、森の中に沼があることを初めて知った。

「……キャルはすごいな」
「キャウ?」
 ルークはキャルを大切に抱えながら、森を自由に歩き、辺境伯邸へ戻る。
 
「……会いたくない奴がいるな」
 屋敷の前で吠える犬の姿に、ルークは眉間にシワを寄せた。