辺境伯はお犬様(聖女)を溺愛中!

「おまえとは絶対に結婚しない」
 好みじゃないんだと肩をすくめるルークの頬をキャルは優しく包み込んだ。

「キャウキャウキャウ」
 嫌いでも女の子にそんな言い方はダメだよ。

「……可哀想って?」
 コクコクとうなづくとルークは困った顔で笑う。

「俺はキャルの方が何倍も魅力的に見えるけれど?」
「キャウ!」
 ホストか!
 楽しそうに笑うルークにクリスティーナは唇を噛んだ。

「帰るわよ!」
 馬車に乗ろうとしたが、誰も馬車の扉を開けないことに腹を立てたクリスティーナは馬車をヒールで蹴る。
 だが当然ながら負けたのはヒール。
 あっさりポッキリ折れたヒールにクリスティーナはキャルを睨んだ。

「覚えてらっしゃい!」
 本当にそんな捨てセリフを言うんだ。
 指をさされたキャルは、見事な悪役っぷりに感心する。

「キャウ?」
 あれ? イケメンが遠くなっていく?
 もとの犬の手に戻ったキャルはまんまるな目で首を傾げた。

 ……あれ?
 人になれたんじゃないの?
 なんでまた犬?

「ちょっと待て、キャル」
 ジタバタ足を動かすキャルをルークが止める。
 ルークは急いで剣を鞘に収めると、シーツをはずしキャルだけを抱き直した。

「どうしたら人のままでいられるんだ?」
「キャウキャウ」
 私が知りたいよ。

「月明かりで人の姿にはなるけどな」
「キャウ?」
 月明かり?
 なんで?
 キュッと首を傾げるキャルにルークは顔を寄せた。

「キャウ!」
 近い!
 イケメンが近い!

「なぁ、キャル。俺と結婚しよう」
「キャウ?」
「は? ルーク、おまえ何を言って!」
 驚くチャーリーを横目にルークは犬のキャルにキスをする。
 
 真っ赤な顔のキャルが人の姿に戻るのはこの3秒後。

「キスでいいならいくらでもしてやる」
 たとえ5分で犬に戻ってしまっても。
 いつか完全な人になれるように、言葉も話せる方法を探してみせると張り切るルーク。

「キャウキャウキャウ」
 女神様、王子のキスで一瞬だけ戻るなんてベタな展開はいらないです!
 だから早く人に戻して〜!
 瘴気もよくわからないし、あの派手な女の人はまた来そうだし、犬の言葉はわからなかったし。
 ルークはイケメンすぎるし。

 なんで私がこんな目に!

『辺境伯はお犬様を溺愛中!』
 キャルが人の姿に戻れるその日まで――。