俺と香山は海へ——行く前に電話をかけた。
「————はい、はい。ですので、宜しくお願いします。失礼します」
声を高くして喋っていた俺は、電話を切るなりいつものトーンに戻す。
「よし、これで昼まで遊べるな」
「君、いつもそんなことしてるの?」
軽蔑の目で見てくる香山に、今回ばかりは反論せずにはいられない。
「いつもちゃうし! てか、無断欠席なんてやったら、親に連絡行くやん。バレたら、ごっつ怒られんねんで。香山のところのも電話したってんから、感謝されたいくらいや」
そう、俺は声真似が得意で、何種類か声が出せる。故に、補習の欠席連絡を二人分したのだ。
「その特技を将来に活かしたら? 声優とかなれるんじゃない?」
「あー、せやな……って、絶対バカにしてるやろ」
「してないよ。早く行こう」
「おう」
気を取り直して、いざ海へ!!
——と言っても、今は夏休み。砂浜は海水浴に来た人で賑わっており、たそがれるには不向き。俺たちは人が少ない堤防へとやってきた。
「おー、真夏の海……やっぱ泳ぎたくなるな」
「泳ぎに行く?」
「いや、水着持ってきてへんし。てか、なんで急に海?」
聞けば、香山は目を瞑って風を感じた。そして、ゆっくりと目を開けてからポツリと言った。
「僕さ、友達いないんだよ」
「あー……うん」
「だからさ、君を見かける度に苛ついてた。羨ましくて」
「俺のこと、前から知ってたんや」
「知ってるよ。『奏多』って呼ばれる度に振り返れば、いつも呼ばれてるのは君の方。それに、あのマンションでもそう。君は家族と楽しそうに馬鹿騒ぎしてる」
香山は、堤防から小石をポンと海に投げ入れた。
「でさ、あんな風に沈めてやりたくて」
「は? こわッ!? マジで!?」
一歩たじろいで、香山を警戒する。しかし、香山はフッと優しい笑みを漏らした。
「冗談だよ。君はさ、お金受け取らなかったんでしょ?」
「え、なんで知って……」
「いつもだから」
「香山……」
「初めは苛々して君に声かけて、嫌がらせ程度に隣に座ってた。けど、段々居心地が良くなって……僕はさ、あの電車の十分が幸せだった」
俺も、と言いかけたところで、香山の表情に陰りがさした。
「だけど、君が僕に興味をしめしてきたから、僕は君を遠ざけようとした」
「まさか……」
「変わった本読んでたら、ドン引きするかなって」
いや、逆に興味が湧いてしまった。
「そして、激マズシフォンケーキ作ったら、怒って僕から離れるかなって……」
それは、ちょっと離れそうになったかも。
「けど、あの後、放課後に待っててくれたやん」
「そりゃ……あんなもの食べさせてしまったし、少なからず責任は感じてる。しかも、美味しいって全部食べて、相当勉強に困ってるんだなって」
「お前、なんか普通にええやつなんやな」
「僕をなんだと思ってたの」
呆れ顔で見られたが、そこはハハハと笑って誤魔化しておく。
「だからさ、欲が出たんだよ。君と海行きたいなって。お金も受け取らず、僕と一緒にいたいって言ってくれる友」
「アカン!」
大きな声で言えば、香山がビクッと肩を震わせた。
「俺らは友達やない。ただの同級生。たまたま電車が隣り合わせになっただけの仲や。やから、俺たちの間に、部外者は入ってこられへん」
「冴島……」
そんな時だった——香山のスマホの着信音が鳴った。
「ま、まさかバレたんやろか。誰から?」
香山はポケットからそれを取り出した。
そこに表示されていたのは、『お父さん』の文字。
しかし、その電話には出ず、香山は諦めたように困った顔で笑った。
「まぁ、仕方ないよね。GPSで監視されてるし」
「は?」
「このスマホ、GPS入れられてるから」
「マジ?」
「本来は監視目的じゃなくて、僕の安全の為だったんだ。一応金持ちの息子だし、誘拐とか……そういうのから守る為。けど、いつしか僕の行動を監視するようになった」
「…………」
「もう君に迷惑はかけらんないから……これが、最初で最後。ありがとう」
ニコッと笑う香山を見て、胸が締め付けられた。
こんなのおかしい。こんなのって、あんまりだ。
「香山。本音……本音を言ってみ」
「何、急に」
「自由になりたいんやろ? 自由気ままに生きとる俺が羨ましかってんやろ?」
「……うん」
コクリと香山は頷き、その瞳からは一筋の雫が溢れ落ちた。
「ほな、自由になろうや」
ニッと笑って、俺は香山のまだ鳴り続けているスマホを取った。
「ちょ、何を!?」
焦る香山を制して、俺は電話に出た。
「はい、もしもし」
【奏多。お前、今何してるんだ!!】
「なにって、補習サボって海来てるだけやで。たまには、ええやろ? これからゲーセン行って、カラオケ行って、バッティングセンター寄って帰るさかい、遅なんで。飯は……どないしよ。テキトーにするから無くてええで」
【お、お前は誰だ!? 奏多はどうした!?】
「何言うてるん。奏多は俺やで」
【まさか、お前……最近奏多の周りをうろついてるゴミカスか。これだから、友達は作るなと言ってるのに】
「ゴミカスなんて、えらい言われようやな。けど、俺ら友達やないんで。とやかく言わんといて下さい」
【屁理屈ばかりたれおって、早く奏多を出せ】
「せやから、奏多は俺や言うてるやん。あ、アカン。風が強うて、吹き飛ばされそうや。あー、スマホがぁぁ」
俺はスマホをぽちゃんと海の中に落とした。
そして、呆気に取られる香山に手を差し伸べた。
「ほな行こか」
「でも……」
「ええやん。ちゃんと行き先言ったんやから。ゲーセン行って、カラオケ行って、あと何やったかな」
「バッティングセンター」
「せやせや、バッティングセンターでスカッとしようや。補習サボって海来てる時点で怒られるの決定なんやから、その前に好きなことせんと損やで」
そう言うと、俺の手と顔を交互に見た香山は、その手を強く握ってきた——。
「————はい、はい。ですので、宜しくお願いします。失礼します」
声を高くして喋っていた俺は、電話を切るなりいつものトーンに戻す。
「よし、これで昼まで遊べるな」
「君、いつもそんなことしてるの?」
軽蔑の目で見てくる香山に、今回ばかりは反論せずにはいられない。
「いつもちゃうし! てか、無断欠席なんてやったら、親に連絡行くやん。バレたら、ごっつ怒られんねんで。香山のところのも電話したってんから、感謝されたいくらいや」
そう、俺は声真似が得意で、何種類か声が出せる。故に、補習の欠席連絡を二人分したのだ。
「その特技を将来に活かしたら? 声優とかなれるんじゃない?」
「あー、せやな……って、絶対バカにしてるやろ」
「してないよ。早く行こう」
「おう」
気を取り直して、いざ海へ!!
——と言っても、今は夏休み。砂浜は海水浴に来た人で賑わっており、たそがれるには不向き。俺たちは人が少ない堤防へとやってきた。
「おー、真夏の海……やっぱ泳ぎたくなるな」
「泳ぎに行く?」
「いや、水着持ってきてへんし。てか、なんで急に海?」
聞けば、香山は目を瞑って風を感じた。そして、ゆっくりと目を開けてからポツリと言った。
「僕さ、友達いないんだよ」
「あー……うん」
「だからさ、君を見かける度に苛ついてた。羨ましくて」
「俺のこと、前から知ってたんや」
「知ってるよ。『奏多』って呼ばれる度に振り返れば、いつも呼ばれてるのは君の方。それに、あのマンションでもそう。君は家族と楽しそうに馬鹿騒ぎしてる」
香山は、堤防から小石をポンと海に投げ入れた。
「でさ、あんな風に沈めてやりたくて」
「は? こわッ!? マジで!?」
一歩たじろいで、香山を警戒する。しかし、香山はフッと優しい笑みを漏らした。
「冗談だよ。君はさ、お金受け取らなかったんでしょ?」
「え、なんで知って……」
「いつもだから」
「香山……」
「初めは苛々して君に声かけて、嫌がらせ程度に隣に座ってた。けど、段々居心地が良くなって……僕はさ、あの電車の十分が幸せだった」
俺も、と言いかけたところで、香山の表情に陰りがさした。
「だけど、君が僕に興味をしめしてきたから、僕は君を遠ざけようとした」
「まさか……」
「変わった本読んでたら、ドン引きするかなって」
いや、逆に興味が湧いてしまった。
「そして、激マズシフォンケーキ作ったら、怒って僕から離れるかなって……」
それは、ちょっと離れそうになったかも。
「けど、あの後、放課後に待っててくれたやん」
「そりゃ……あんなもの食べさせてしまったし、少なからず責任は感じてる。しかも、美味しいって全部食べて、相当勉強に困ってるんだなって」
「お前、なんか普通にええやつなんやな」
「僕をなんだと思ってたの」
呆れ顔で見られたが、そこはハハハと笑って誤魔化しておく。
「だからさ、欲が出たんだよ。君と海行きたいなって。お金も受け取らず、僕と一緒にいたいって言ってくれる友」
「アカン!」
大きな声で言えば、香山がビクッと肩を震わせた。
「俺らは友達やない。ただの同級生。たまたま電車が隣り合わせになっただけの仲や。やから、俺たちの間に、部外者は入ってこられへん」
「冴島……」
そんな時だった——香山のスマホの着信音が鳴った。
「ま、まさかバレたんやろか。誰から?」
香山はポケットからそれを取り出した。
そこに表示されていたのは、『お父さん』の文字。
しかし、その電話には出ず、香山は諦めたように困った顔で笑った。
「まぁ、仕方ないよね。GPSで監視されてるし」
「は?」
「このスマホ、GPS入れられてるから」
「マジ?」
「本来は監視目的じゃなくて、僕の安全の為だったんだ。一応金持ちの息子だし、誘拐とか……そういうのから守る為。けど、いつしか僕の行動を監視するようになった」
「…………」
「もう君に迷惑はかけらんないから……これが、最初で最後。ありがとう」
ニコッと笑う香山を見て、胸が締め付けられた。
こんなのおかしい。こんなのって、あんまりだ。
「香山。本音……本音を言ってみ」
「何、急に」
「自由になりたいんやろ? 自由気ままに生きとる俺が羨ましかってんやろ?」
「……うん」
コクリと香山は頷き、その瞳からは一筋の雫が溢れ落ちた。
「ほな、自由になろうや」
ニッと笑って、俺は香山のまだ鳴り続けているスマホを取った。
「ちょ、何を!?」
焦る香山を制して、俺は電話に出た。
「はい、もしもし」
【奏多。お前、今何してるんだ!!】
「なにって、補習サボって海来てるだけやで。たまには、ええやろ? これからゲーセン行って、カラオケ行って、バッティングセンター寄って帰るさかい、遅なんで。飯は……どないしよ。テキトーにするから無くてええで」
【お、お前は誰だ!? 奏多はどうした!?】
「何言うてるん。奏多は俺やで」
【まさか、お前……最近奏多の周りをうろついてるゴミカスか。これだから、友達は作るなと言ってるのに】
「ゴミカスなんて、えらい言われようやな。けど、俺ら友達やないんで。とやかく言わんといて下さい」
【屁理屈ばかりたれおって、早く奏多を出せ】
「せやから、奏多は俺や言うてるやん。あ、アカン。風が強うて、吹き飛ばされそうや。あー、スマホがぁぁ」
俺はスマホをぽちゃんと海の中に落とした。
そして、呆気に取られる香山に手を差し伸べた。
「ほな行こか」
「でも……」
「ええやん。ちゃんと行き先言ったんやから。ゲーセン行って、カラオケ行って、あと何やったかな」
「バッティングセンター」
「せやせや、バッティングセンターでスカッとしようや。補習サボって海来てる時点で怒られるの決定なんやから、その前に好きなことせんと損やで」
そう言うと、俺の手と顔を交互に見た香山は、その手を強く握ってきた——。



