早速、香山が簡単なテストを作成してくれたのだが、それはまるで簡単ではなかった。
「なるほどねぇ」
椅子に座って脚を組みながら採点用紙を眺める香山の前で、俺は膝をついて頭を下げる。
「頼む! 赤点だけは免れたいねん!」
「まぁ、高得点は無理にしても六十点でしょ? 頑張ればどうにかなるよ」
「マジか! サンキュー」
「頑張れば……だけどね」
「頑張る! せやから、よろしゅう頼みます」
頭を深々下げれば、腹の虫がグゥと鳴った。
「あ、悪い」
「まぁ、もう十九時だもんね。今日は終わりにしよっか」
「え!? 何もしてへんやん」
「小テストしたじゃん」
「いや、せやけど。そうやなくて……」
香山は机の上を片付けながら、いつになく優しく言った。
「勉強は、詰め込めば良いってもんじゃないし。お腹が空いてる状態でやっても、頭に入んないよ」
「そういうもんか……」
「明日も、うち来なよ」
「あー」
外からポケットを触れば、お手伝いさんから貰ったクシャクシャの小切手の塊が触れた。
きっと、明日も来たら更に面倒な事を言われそうだ、百万円の小切手とか渡されたらどうしようか……。
「明日は学校でしーひん? 図書室とか、どこでもええし」
学校なら介入してこないだろうと思って言えば、香山はどこか寂しげな表情を見せた。
「ひょっとして、冴島も……」
そこで言葉を詰まらせる香山。
「香山、もしかしてやけど……」
小切手のことを知っているのだろうかと問おうとすれば、いつになく塩らしい姿から一変、香山はいつものように生意気な口調で言った。
「まぁ、ベッドとかあると、君すぐ寝ちゃいそうだもんね。明日は学校でする方が良いかもね」
「よ、よう分かったな、俺の性格。せやねん、やから、学校でな」
ギリギリバレてない?
こんなこと知ったら、絶対に悲しいはずだ。隠し通そう。
(てか、なんで俺、香山と友達でもないのに、こんな焦ってんねやろ。俺より小っさいくせに生意気やし、特進クラスのエリートやし、副会長やし、ボンボンやし……)
そもそも住む世界の違う住人だ。
香山に真実を伝えて、親子関係が滅茶苦茶になっても関係ない。それなのに————。
「最後にトイレ借りてええ?」
「良いけど、君んち、ここの五階でしょ? 自分の家で行けば?」
「アホやな。オーナーの家のトイレなんて中々お目にかかれへんねんで。一回くらい行ってみたいやろ。それに、我が家と違って、ふんわりダブルつこうてそうやん?」
「何でも良いけど、人んちのトイレでそっちする気?」
「そっち?」
首を傾げながら自分の発言を思い出す。
ふんわりダブル——ふんわりダブルのトイレットペーパー……男がそれを使う時——!?
「ちゃ、ちゃうし! 俺はただ、トイレでペーパーの肌触りを感じるんが好きなだけやし!」
「ふぅん。変わった趣味だね」
「べ、別にええやろ!」
羞恥のあまり顔を真っ赤にさせながら、俺は扉を開けて廊下に出た。
「チッ、また馬鹿にされる材料が出来ただけやないか。俺のアホ」
ぼやきながら、俺は香山の両親か、さっきのお手伝いさんがいないか探す為、トイレではなくリビングに向かった。
(えらい静かやな……誰もおらんのやろか)
リビングにも電気はついておらず、誰の気配も——お手伝いさんがヌッと目の前に出てきた。
「どうなさいました」
「わッ!」
心臓が止まるかと思った。
「びっくりさせんとってください。てか、ご両親はおらへんのですか?」
お手伝いさんは、リビングの電気をつけながら応えた。
「お二人ともお忙しい方ですので、いつも奏多様が寝静まった頃に帰って参ります。何かご用……はないでしょうから、そのままお引き取り下さい」
「失礼なやっちゃな。おらへんのやったら、あんたにこれ返しときますんで」
俺は机の上にクシャクシャに丸まった小切手を置いた。
「金額でしたら……」
「金額の問題ちゃう言うてるやろ。そもそも、俺は香山の友人やないですから」
「では、何故この家に?」
「何故って……勉強教えてもらいにきただけです。せやから、友人でもない俺に、手切れ金は不用ですやろ?」
「そうですが……」
「トイレって言って出てきたんで、一旦戻ります」
じゃ、と背を向けて俺は荷物を取りに香山の部屋に戻った——。
「なるほどねぇ」
椅子に座って脚を組みながら採点用紙を眺める香山の前で、俺は膝をついて頭を下げる。
「頼む! 赤点だけは免れたいねん!」
「まぁ、高得点は無理にしても六十点でしょ? 頑張ればどうにかなるよ」
「マジか! サンキュー」
「頑張れば……だけどね」
「頑張る! せやから、よろしゅう頼みます」
頭を深々下げれば、腹の虫がグゥと鳴った。
「あ、悪い」
「まぁ、もう十九時だもんね。今日は終わりにしよっか」
「え!? 何もしてへんやん」
「小テストしたじゃん」
「いや、せやけど。そうやなくて……」
香山は机の上を片付けながら、いつになく優しく言った。
「勉強は、詰め込めば良いってもんじゃないし。お腹が空いてる状態でやっても、頭に入んないよ」
「そういうもんか……」
「明日も、うち来なよ」
「あー」
外からポケットを触れば、お手伝いさんから貰ったクシャクシャの小切手の塊が触れた。
きっと、明日も来たら更に面倒な事を言われそうだ、百万円の小切手とか渡されたらどうしようか……。
「明日は学校でしーひん? 図書室とか、どこでもええし」
学校なら介入してこないだろうと思って言えば、香山はどこか寂しげな表情を見せた。
「ひょっとして、冴島も……」
そこで言葉を詰まらせる香山。
「香山、もしかしてやけど……」
小切手のことを知っているのだろうかと問おうとすれば、いつになく塩らしい姿から一変、香山はいつものように生意気な口調で言った。
「まぁ、ベッドとかあると、君すぐ寝ちゃいそうだもんね。明日は学校でする方が良いかもね」
「よ、よう分かったな、俺の性格。せやねん、やから、学校でな」
ギリギリバレてない?
こんなこと知ったら、絶対に悲しいはずだ。隠し通そう。
(てか、なんで俺、香山と友達でもないのに、こんな焦ってんねやろ。俺より小っさいくせに生意気やし、特進クラスのエリートやし、副会長やし、ボンボンやし……)
そもそも住む世界の違う住人だ。
香山に真実を伝えて、親子関係が滅茶苦茶になっても関係ない。それなのに————。
「最後にトイレ借りてええ?」
「良いけど、君んち、ここの五階でしょ? 自分の家で行けば?」
「アホやな。オーナーの家のトイレなんて中々お目にかかれへんねんで。一回くらい行ってみたいやろ。それに、我が家と違って、ふんわりダブルつこうてそうやん?」
「何でも良いけど、人んちのトイレでそっちする気?」
「そっち?」
首を傾げながら自分の発言を思い出す。
ふんわりダブル——ふんわりダブルのトイレットペーパー……男がそれを使う時——!?
「ちゃ、ちゃうし! 俺はただ、トイレでペーパーの肌触りを感じるんが好きなだけやし!」
「ふぅん。変わった趣味だね」
「べ、別にええやろ!」
羞恥のあまり顔を真っ赤にさせながら、俺は扉を開けて廊下に出た。
「チッ、また馬鹿にされる材料が出来ただけやないか。俺のアホ」
ぼやきながら、俺は香山の両親か、さっきのお手伝いさんがいないか探す為、トイレではなくリビングに向かった。
(えらい静かやな……誰もおらんのやろか)
リビングにも電気はついておらず、誰の気配も——お手伝いさんがヌッと目の前に出てきた。
「どうなさいました」
「わッ!」
心臓が止まるかと思った。
「びっくりさせんとってください。てか、ご両親はおらへんのですか?」
お手伝いさんは、リビングの電気をつけながら応えた。
「お二人ともお忙しい方ですので、いつも奏多様が寝静まった頃に帰って参ります。何かご用……はないでしょうから、そのままお引き取り下さい」
「失礼なやっちゃな。おらへんのやったら、あんたにこれ返しときますんで」
俺は机の上にクシャクシャに丸まった小切手を置いた。
「金額でしたら……」
「金額の問題ちゃう言うてるやろ。そもそも、俺は香山の友人やないですから」
「では、何故この家に?」
「何故って……勉強教えてもらいにきただけです。せやから、友人でもない俺に、手切れ金は不用ですやろ?」
「そうですが……」
「トイレって言って出てきたんで、一旦戻ります」
じゃ、と背を向けて俺は荷物を取りに香山の部屋に戻った——。



