昼休憩。
俺は、特進クラスのあるB棟へと足を運ぶ。
普通科のあるA棟と違って、こちらは業者が清掃に入る。少しでも勉強に専念する為らしいが、そのおかげで校舎は随分と綺麗だ。
初めて入るその地に緊張した面持ちで通れば、すれ違う生徒に怪訝な顔で見られた。
何も言わないが、心の声が『あいつ普通科やろ? なんでバカがこんなところにおんねん。バカが移るやないか』と言っている。
そして、すれ違う生徒はもちろん、教室の中にいる生徒も、手には参考書やら単語帳片手に勉強している。お弁当が片手間のようだ。
しかも、普通科のように話し声で溢れる昼休憩と違って、ここは全くと言って良いほど誰の声も聞こえない。
(香山、ようこんなところに毎日毎日通えんな。息が詰まりそうや)
生徒会室と書かれた部屋の前で一旦止まり、コンコンコン——とノックする。
中からは返事がないが、そのまま横にガラガラと戸を引いた。
「うわ! なんやねん、ここ!」
「うるさいなぁ。黙って入ってこられないの?」
だって、中はまるで校長室のように豪華なソファがドンと置かれ、茶色の絨毯はふかふか、後ろにある食器棚にある食器なんて磨かれすぎて光が反射している。
そして何より、香山がいる奥のスペース。まるで家庭のキッチンだ。しかも、家庭は家庭でも、俺のような凡人の家庭ではなく、人生勝ち組の高級マンションにあるようなアイランドキッチン。
呆気に取られながら中に入り、ふかふかのソファをサワサワと触る。
「香山。なんでこの部屋だけ、こんな豪華なんや?」
「生徒会室だから」
「生徒会室って、どの学校もこうなんか?」
「さぁ、ここは、去年うちの親が寄付したお金で改装してもらったから」
「マジか……」
香山は、ただのガリ勉優等生ではなく、超がつくほどの金持ちのようだ。
しかし、それが何故、漁師? 何故、新作料理?
ピンクの似合わないエプロンを付けた香山は、耐熱ミトンを装着し、チンッと音がなったオーブンを開けた。そこからは、芳ばしい良い匂い。
「ケーキ?」
「ああ、シフォンケーキに何を混ぜても美味しいのか実験中なんだ」
「それは……何が入っとるん?」
香山は、フッと乾いた笑みを漏らした。
「って、教えろや!」
「教えたら意味がないんだよ。ニンジン嫌いな子に、ニンジンケーキを最初からニンジン入りだよって伝えてしまったら、先入観から入るから結局それを美味しいって思えない。先入観なしでいかないと」
「へぇ、そういうもんなんや」
ふわふわのシフォンケーキを皿に切り分け、たっぷりの生クリームが添えられる。
「さぁ、座って」
「ほーい」
ふかふかのソファに座れば、目の前に焦茶や黒、グレーの何とも不味そうなそれらが机に並んだ。
何が入っているか分からないものの、匂いは普通に美味しそうだ。見た目は……色が少しグロテスクだが、まぁ食べられなくはなさそうだ。
「頂きます」
フォークで一口サイズに切り分け、焦茶のようなそれをパクリと口に放り込んだ。
「う、なんやこれ」
「どう? 美味しい?」
机を挟んだ向かいの席から、香山は、いつになくキラキラした目で見てきた。相当な自信作のようだ。
見た目同様にお世辞にも美味しいとは言えないそれを俺はもう一口食べて、無理矢理笑顔を作る。
「お、おう。なかなか美味いやん。これ、何が入ってんの?」
「サバと味噌」
「サ……」
なるほど……まぁ、一応食べ物ではあるから許される。虫とかならどうしようかと思った。
香山は、次のどす黒い皿を指差した。
「次、これね」
やはり、香山の目はキラキラしており、これもまた自信作のようだ。
試験勉強を教えてもらい夏休みを謳歌する為、多少の犠牲はつきものだ。俺はそれにフォークをさした。
——五時限目の授業に出席せず、トイレにこもったことは、香山には内緒だ。
俺は、特進クラスのあるB棟へと足を運ぶ。
普通科のあるA棟と違って、こちらは業者が清掃に入る。少しでも勉強に専念する為らしいが、そのおかげで校舎は随分と綺麗だ。
初めて入るその地に緊張した面持ちで通れば、すれ違う生徒に怪訝な顔で見られた。
何も言わないが、心の声が『あいつ普通科やろ? なんでバカがこんなところにおんねん。バカが移るやないか』と言っている。
そして、すれ違う生徒はもちろん、教室の中にいる生徒も、手には参考書やら単語帳片手に勉強している。お弁当が片手間のようだ。
しかも、普通科のように話し声で溢れる昼休憩と違って、ここは全くと言って良いほど誰の声も聞こえない。
(香山、ようこんなところに毎日毎日通えんな。息が詰まりそうや)
生徒会室と書かれた部屋の前で一旦止まり、コンコンコン——とノックする。
中からは返事がないが、そのまま横にガラガラと戸を引いた。
「うわ! なんやねん、ここ!」
「うるさいなぁ。黙って入ってこられないの?」
だって、中はまるで校長室のように豪華なソファがドンと置かれ、茶色の絨毯はふかふか、後ろにある食器棚にある食器なんて磨かれすぎて光が反射している。
そして何より、香山がいる奥のスペース。まるで家庭のキッチンだ。しかも、家庭は家庭でも、俺のような凡人の家庭ではなく、人生勝ち組の高級マンションにあるようなアイランドキッチン。
呆気に取られながら中に入り、ふかふかのソファをサワサワと触る。
「香山。なんでこの部屋だけ、こんな豪華なんや?」
「生徒会室だから」
「生徒会室って、どの学校もこうなんか?」
「さぁ、ここは、去年うちの親が寄付したお金で改装してもらったから」
「マジか……」
香山は、ただのガリ勉優等生ではなく、超がつくほどの金持ちのようだ。
しかし、それが何故、漁師? 何故、新作料理?
ピンクの似合わないエプロンを付けた香山は、耐熱ミトンを装着し、チンッと音がなったオーブンを開けた。そこからは、芳ばしい良い匂い。
「ケーキ?」
「ああ、シフォンケーキに何を混ぜても美味しいのか実験中なんだ」
「それは……何が入っとるん?」
香山は、フッと乾いた笑みを漏らした。
「って、教えろや!」
「教えたら意味がないんだよ。ニンジン嫌いな子に、ニンジンケーキを最初からニンジン入りだよって伝えてしまったら、先入観から入るから結局それを美味しいって思えない。先入観なしでいかないと」
「へぇ、そういうもんなんや」
ふわふわのシフォンケーキを皿に切り分け、たっぷりの生クリームが添えられる。
「さぁ、座って」
「ほーい」
ふかふかのソファに座れば、目の前に焦茶や黒、グレーの何とも不味そうなそれらが机に並んだ。
何が入っているか分からないものの、匂いは普通に美味しそうだ。見た目は……色が少しグロテスクだが、まぁ食べられなくはなさそうだ。
「頂きます」
フォークで一口サイズに切り分け、焦茶のようなそれをパクリと口に放り込んだ。
「う、なんやこれ」
「どう? 美味しい?」
机を挟んだ向かいの席から、香山は、いつになくキラキラした目で見てきた。相当な自信作のようだ。
見た目同様にお世辞にも美味しいとは言えないそれを俺はもう一口食べて、無理矢理笑顔を作る。
「お、おう。なかなか美味いやん。これ、何が入ってんの?」
「サバと味噌」
「サ……」
なるほど……まぁ、一応食べ物ではあるから許される。虫とかならどうしようかと思った。
香山は、次のどす黒い皿を指差した。
「次、これね」
やはり、香山の目はキラキラしており、これもまた自信作のようだ。
試験勉強を教えてもらい夏休みを謳歌する為、多少の犠牲はつきものだ。俺はそれにフォークをさした。
——五時限目の授業に出席せず、トイレにこもったことは、香山には内緒だ。



