電車が動き出した瞬間、外の景色が急にぼやけ、社内の空気が重たくなったような気がした。
私は電車の座席に身を委ね、心を整えるかのように深呼吸を繰り返す。
電車のカタカタという音が、私の神経を刺激する。
そんな緊張しっぱなしの私に、神崎さんがそっと声をかけてくる。それは、低くて優しい、とても耳障りのいい声だった。
私が選んだのは、青い電車だ。
「青い電車を選ばれたんですね?」
「……はい」
神崎さんは少し寂しそうな顔をしながら、流れる景色を眺めている。と言ったものの、外の風景など、ほとんど霞んで見えないのだけれど……。
「どうして青い電車を選んだか、聞いてもいいでしょうか?」
「はい。別に構わないです」
「では、どうしてですか?」
神崎さんが、不安そうにしている私の顔を覗き込んでくる。
そんな彼を見ていると、神崎さんは私に赤い電車を選んでほしかったのかな……と、頭の片隅で思う。
でも私は、赤い電車に乗ることができなかった。
「私は二万人に一人という難病を持って生まれました。見てください。この髪と肌。それに瞳の色を……。このアルビノのせいで、私はずっと辛い目に遭ってきたんです」
「そうなのですね……。私には、とても美しく見えますが、さぞやお辛い思いをされたことでしょう」
神崎さんのその言葉に、一瞬言葉が詰まってしまう。彼にそう言われると、素直に誉められているように感じるから不思議だ。
それでも、私の凍り付いてしまった心を、変えることなんてできない――。
「それに、生きていても何もいいことなんてないですし、どうせ、何をしても、自分が変わらない限り未来なんて変わらない。私、人生と自分に期待をしないでいようって決めたんです。だって、期待をしたら、裏切られて傷つくでしょう?」
「確かに、そうですね……」
「だから私、自分が生まれた瞬間に行ってみたい。そしたら、この手で、赤ん坊だった自分の息の根を止めてあげたいんです」
「そうなんですね……」
「はい。過去の自分に、今の自分のように苦しんでほしくはないから」
私は自分の両手を見つめる。
夢中でフェンスを上ったせいで、手には細かい傷がたくさんあった。
「だから、神崎さんがせっかく赤い電車も用意してくれたのに、青いの電車に乗ってごめんなさい」
神崎さんに向かって頭を下げると、彼は慌てたように自分の顔の前で両手を振って見せた。
「別に、お嬢様がお選びになったのですから、どちらの電車でも私は構わないのです。ただ……」
「ただ?」
「お嬢様にとって、素敵なエンディングになるといいなと思います。このまま死へ向かっていくにしても、途中で気が変わって、終点の駅を変えられたとしても……。私は、お嬢様が悔いのない、そんなエンディングを迎えてほしいだけです」
「神崎さん……」
「すみません。私のような者が偉そうに意見などしてしまい……」
「いえ、そんな……」
それから沈黙が訪れて、電車が走るガタンガタンッという音が、静かな電車の中に響き渡る。
遠くから、赤ん坊の泣き声が聞こえてきたような気がして、私は強い不安を感じた。
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では、素敵な旅を……。
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