「お嬢様、到着しました」
「え? ここが『終焉の駅』、ですか?」
「はい。お嬢様がこの電車を降りた瞬間、未来が大きく変わります」
「本当に未来が変えられますか?」
「はい。よくご決断されましたね」
神崎さんの笑顔に、止まっていた涙が再び頬を伝う。
(これで、私の人生は終わりを迎えるんだ)
心の底から安堵し、全身の力が抜けていく感覚に襲われる。
「さぁ、お嬢様。電車をお降りください」
「神崎さんは、また違う誰かのところに向かうんですか?」
「はい。その通りでございます。お嬢様のように助けを求めている方の下へ、私は向かいます。短い間でしたが、お嬢様の幸せを願っております。それでは、お降りくださいませ」
神崎さんがそっと背中を押してくれる。
この人に会えたことで、あの電車に乗れたことで、私の人生は大きく変わった。
今回の電車の旅で、私には、こんな私を愛してくれる人がたくさんいることを知った。
でも逆に、自分がどんなに辛く、苦しい人生を歩んできたのかを振り返ることができた。
「もう、あんな苦しい思いなんてしたくない。生きていたって、いいことなんて何もないもの……」
また涙が溢れ出す。
もう、イジメや仲間外れはごめんだ。
でも弱い私は、自分を変えることなんてできない。
きっとこの先の人生も、同じことを繰り返してしまうことだろう。
もし、生まれ変わることができたならば……。今度は普通の体に生まれてきたい。
そして、楽しい思いで修学旅行に行って、素敵な彼氏を作りたい。
私が私でなくなれば、その夢が叶うかもしれない。
これで、全てが終わるんだ――。
「ありがとう、神崎さん」
小さく呟いた瞬間、一瞬目の前の景色が歪み、見ている風景が変わった。
『終焉の駅』は、私がつい先ほどまでいた屋上だった。
目の前には育った街が広がり、背中には冷たいフェンス。
「さようなら。お父さん、お母さん。それに、お姉ちゃん」
私は空中に向かい、一歩、また一歩と歩み出す。
「ごめんなさい」
最後に一粒の涙が頬を伝う。
目の前に広がる美しい夜景。全てがまるで宝石のように輝いて見えた。
(よかった。最後に見た景色がこんなにも美しくて……)
足元には広い谷間が広がり、冷たい風が頬を撫でる。制服のスカートが風に揺れた。
この身を投げ出すためには、この最後の一歩を踏み出さなければならない。
心臓が胸の中で激しく鼓動し、呼吸が苦しくなる。
でも、どうしても先に進みたい。私の気持ちが変わることなんて、もうないから。
この先に何が待っているかはわからないけれど、ただ進まなければならない。
最後の一歩を大きく踏み出すと、体が少しずつ前に傾く。
この身を投げ出す瞬間が近づいてきた――。
「さようなら」
私が空中に身を投げ出すと、視界が一瞬で反転した。
重力に身を任せ、ただ落下していく。
風が全身を叩きつける音が、耳鳴りのように響く。
時間という概念が消え、ただただ落ちていくという感覚だけが残った。
さっきまで見ていた街の風景が、どんどん遠ざかり、形を失っていく。驚くほど静かで、驚くほど速い。
(もう、これで終わりだ)
そこで初めて、全てから解放されるような、安堵感が胸を満たしていく。
そして、私は意識を失った……。
薄れゆく意識の中で、美しい花畑が見えた気がした。
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