「お嬢様、駅に着きました。行ってらっしゃいませ。お気をつけて」
「あ、はい。行ってきます」
神崎さんが微笑みながら、そっと背中を押してくれる。
そして、電車から降りた瞬間――。私は思わず息を呑む。
「え? 嘘、ここって……」
そこは、私が通っている高校だった。
生徒たちのざわめく中、私は呆然と立ち尽くしている。
(あぁ、これは、私が高校三年生になった始業式の日だ)
ようやく理解することができた。
そして、高校三年生の冬。最悪な事態が私を襲うこととなる。
私にしてみたら、人生でこんなにも最悪なアクシデントなんて、今までなかったくらい……。それくらい、最悪な出来事。
高校三年生と言えば受験や就職に向けて、本格的に動き出す時期でもある。
私たちは、それまでの成績と、進路の希望に合わせてA組からE組にクラス分けをされた。
A組は有名大学を希望するような、頭のいい生徒が集まるクラス。
E組はほとんど学校にも来てなくて、進路さえも決まっていないような生徒が集まるクラス、って感じ。
進路の決まっていない、今まで勉強もしてこなかった私はD組になった。別にこの際何組でもいいんだけれど、D組には所謂不良グループが集まってしまったの。
(もう最悪!)
私は三年生になった始業式の日、昇降口貼り出されたクラス分けの表を見て、漠然としたわ。
(絶対にイジメのターゲットにされる……)
そう思うと、目の前が真っ暗になった。そのまま帰宅しようか、悩んだくらい。
でも、私は両親に学校でイジメられていることを知られたくなかった。だって、心配をかけたくなかったから。
だから、鞄をギュッと握りしめて、息を潜めながら三年D組の教室に向かった。
教室に入った瞬間、私は不良グループに囲まれてしまう。
心の準備はしてきたつもりだったけれど、やっぱり怖くて……。一瞬で血の気が引いて、体がガタガタと震え出す。
でも私のことを助けてくれる人がいないことは、もうわかりきっていることだから――。私は、俯いて震えていることしかできなかった。
何も言えない私を見て、不良グループはとても楽しそうだったなぁ。いいターゲットを見つけた、って嬉しかったんでしょうね。ここぞとばかりに、私の外見を馬鹿にしてきた。
「なにその白髪。ババァみてぇじゃん!」
「肌も白すぎて死体みたい。お前生きてんの?」
「キモい~‼」
今まで、こんな言葉は飽きるほど聞いてきた。でも、何度聞いても傷ついてしまう。そんな自分が嫌だった。
だからって「やめてよ!」なんていう度胸は生憎持ち合わせてはいない。
私は黙ったまま、新しい担任が教室に入ってくるのを待つしかなかった。
それからもイジメは続いた。
悪口を言われたかと思うと、次の時には無視されたり……。イジメる相手の気分によって、私は酷い扱いを受けた。本当に、生きている心地なんてしなかった。
「気持ち悪い」と髪を引っ張られたり、盗撮された写真をSNSに投稿されたこともある。
私は「化け物」と呼ばれ、みんなからひどい仕打ちを受け続けた。
でもやっぱり、私には両親や教師にこのことを相談できずにいる。
勿論、こんな悩みを打ち明けることができる友人もいない。
だから私は、いつも一人で耐えたの。
悪口や陰口は聞こえないフリをして、無視されても傷ついていないフリをした。
でも、そんなの全部『フリ』であって、私の心は、まるでナイフで切り刻まれたかのようにボロボロになっていった。
そんなある寒い冬の日に、あの事件が起こったの。
もうすぐ卒業だから、もう少しの辛抱だ――。そう思いながら、私は毎日必死に登校していた。
でも、あの出来事で、私の心は粉々に砕け散ってしまったのだ。
私を裸にして、その姿をSNSに投稿しようだなんて……。正気の沙汰じゃない。
「死にたい」。咄嗟にそう思う。
この世界から逃げ出したい。
私に残された道は、それしか残っていなかったから。
(屋上に向かおう)
そう思った時、遠くから神崎さんの声が聞こえてきた。
「お嬢様、そろそろ発車の時間です。電車にお戻りください」
「神崎さん……? あぁ、よかった。助かった……」
私は逃げるように、電車に飛び乗った。
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