「お嬢様。声をかけてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。なんでしょう?」
ボーッと外の景色を眺めていた私は、神崎さんの言葉で、一瞬で現実に引き戻された。
まぁ、外の景色と言っても、時空の歪みに落ちてしまったかのような、不思議な風景なんだけれど……。
今まで色々な時代の自分に会ってきた。
それは幸せな時もあれば、目を覆いたくなるほど辛い時もあった。
そんな私の心は、まるでクレヨンで殴り書きをしたかのように、グチャグチャだった。
(もう何も考えずに、この電車にずっと乗っていたい)
私は、もう考えることを放棄したかった。
そして、何も考えずに、ただこうやって電車に揺られていたい。
そう、何も考えずに……。
でもそんなことが許されないなんて、わかりきっているけどね。
「お嬢様がこの電車に乗られた時に、『起点の駅』へ行くか、『終焉の駅』へ向かうかをお聞きしましたよね?」
「はい」
「そして色々悩まれた結果、今、この電車に乗っています」
「はい。その通りです」
これから何を言われるのだろう?
警戒心から顔が強張っていくのがわかる。
そんな私の様子に気が付いたのか、神崎さんがいつものように柔和な笑顔を浮かべた。
「そんなに怖がらないでください。大丈夫ですよ。私はお嬢様の味方ですから」
「そ、そうですよね……」
「はい」
そう言いながら微笑む神崎さんを見ていると、一気に肩の力が抜けていくのを感じる。
根拠はないけれど、神崎さんのことは信じても大丈夫だ――。そう本能が教えてくれているような気がする。
神崎さんはイケメンというだけでなく、心の中を温かくしてくれる。そんな不思議な魅力を持っている人だった。
「見ての通り、この電車には線路がありません」
神崎さんの言う通り、この電車は線路の上を走っていない。そればかりか、運転手さんも車掌さんもいない。
ただ、空の上を飛んでいるのだ。
初めはびっくりしたけれど、慣れてしまえば乗り心地もそれほど悪くはない。
私は、快適な電車の旅を送っていた。
今の私には『起点の駅』も『終焉の駅』も、『生きること』も『死ぬこと』も、どうでもよくなっている。
だって、こんなイケメンとなら、電車の旅も悪くない。
もう何も考えたくなんてないもの。
それなのに、神崎さんは私に話しかけてくる。
「私は、途中で電車の行き先を変えることができる、とお伝えしたと思います」
「はい。そのお話は覚えていますよ」
「そうですか、覚えてくださっていてよかったです」
神崎さんがホッとしたように胸を撫でおろしている。
そんな姿も、見惚れてしまうほどのイケメンだ。
「こうやって色々な時代のご自身を見ていると、考えも変わってくると思うんです」
「んー、確かに……」
「そうですよね? この電車は線路がないので、自由に行き先を変えることができます。ですから、お嬢様。終着駅を変えても構いませんからね」
「あ、はい……」
「まだ終着駅まで時間があります。よく考えてくださいませ」
「はい、わかりました」
今の私の心は、『起点の駅』と『終焉の駅』。一体どちらに向かっているのだろうか?
大体、この質問に答えなんてあるのだろうか?
どちらを選んでも、後悔してしまうような気がする。
大体、生きるか? それとも死ぬか? なんて問題、高校生の私には重すぎる。
電車はガタガタと揺れながら走り続ける。
窓の外をもう一度眺めても、見えるものは暗闇と星のようなものだけ。
私は座席に身を沈め、手で額を抑える。頭の中は混乱していて、考えることができない。
電車のガタガタという音が、鼓膜に打ちつけるように響いている。
私が行きたいのは『起点の駅』?
それとも『終焉の駅』?
そもそも、私は生きていたいの?
それとも、このまま死にたいの?
電車の揺れる音が、まるで自分の心の中の戸惑いを形にしたかのようで……。
私の不安は、膨らんでいくばかりだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あ、はい。なんでしょう?」
ボーッと外の景色を眺めていた私は、神崎さんの言葉で、一瞬で現実に引き戻された。
まぁ、外の景色と言っても、時空の歪みに落ちてしまったかのような、不思議な風景なんだけれど……。
今まで色々な時代の自分に会ってきた。
それは幸せな時もあれば、目を覆いたくなるほど辛い時もあった。
そんな私の心は、まるでクレヨンで殴り書きをしたかのように、グチャグチャだった。
(もう何も考えずに、この電車にずっと乗っていたい)
私は、もう考えることを放棄したかった。
そして、何も考えずに、ただこうやって電車に揺られていたい。
そう、何も考えずに……。
でもそんなことが許されないなんて、わかりきっているけどね。
「お嬢様がこの電車に乗られた時に、『起点の駅』へ行くか、『終焉の駅』へ向かうかをお聞きしましたよね?」
「はい」
「そして色々悩まれた結果、今、この電車に乗っています」
「はい。その通りです」
これから何を言われるのだろう?
警戒心から顔が強張っていくのがわかる。
そんな私の様子に気が付いたのか、神崎さんがいつものように柔和な笑顔を浮かべた。
「そんなに怖がらないでください。大丈夫ですよ。私はお嬢様の味方ですから」
「そ、そうですよね……」
「はい」
そう言いながら微笑む神崎さんを見ていると、一気に肩の力が抜けていくのを感じる。
根拠はないけれど、神崎さんのことは信じても大丈夫だ――。そう本能が教えてくれているような気がする。
神崎さんはイケメンというだけでなく、心の中を温かくしてくれる。そんな不思議な魅力を持っている人だった。
「見ての通り、この電車には線路がありません」
神崎さんの言う通り、この電車は線路の上を走っていない。そればかりか、運転手さんも車掌さんもいない。
ただ、空の上を飛んでいるのだ。
初めはびっくりしたけれど、慣れてしまえば乗り心地もそれほど悪くはない。
私は、快適な電車の旅を送っていた。
今の私には『起点の駅』も『終焉の駅』も、『生きること』も『死ぬこと』も、どうでもよくなっている。
だって、こんなイケメンとなら、電車の旅も悪くない。
もう何も考えたくなんてないもの。
それなのに、神崎さんは私に話しかけてくる。
「私は、途中で電車の行き先を変えることができる、とお伝えしたと思います」
「はい。そのお話は覚えていますよ」
「そうですか、覚えてくださっていてよかったです」
神崎さんがホッとしたように胸を撫でおろしている。
そんな姿も、見惚れてしまうほどのイケメンだ。
「こうやって色々な時代のご自身を見ていると、考えも変わってくると思うんです」
「んー、確かに……」
「そうですよね? この電車は線路がないので、自由に行き先を変えることができます。ですから、お嬢様。終着駅を変えても構いませんからね」
「あ、はい……」
「まだ終着駅まで時間があります。よく考えてくださいませ」
「はい、わかりました」
今の私の心は、『起点の駅』と『終焉の駅』。一体どちらに向かっているのだろうか?
大体、この質問に答えなんてあるのだろうか?
どちらを選んでも、後悔してしまうような気がする。
大体、生きるか? それとも死ぬか? なんて問題、高校生の私には重すぎる。
電車はガタガタと揺れながら走り続ける。
窓の外をもう一度眺めても、見えるものは暗闇と星のようなものだけ。
私は座席に身を沈め、手で額を抑える。頭の中は混乱していて、考えることができない。
電車のガタガタという音が、鼓膜に打ちつけるように響いている。
私が行きたいのは『起点の駅』?
それとも『終焉の駅』?
そもそも、私は生きていたいの?
それとも、このまま死にたいの?
電車の揺れる音が、まるで自分の心の中の戸惑いを形にしたかのようで……。
私の不安は、膨らんでいくばかりだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



