起点と終焉の駅 ―生きるか死ぬか、あなたはどちらの駅を選びますか?―


「お嬢様、駅に着きました。行ってらっしゃいませ。お気をつけて」
「はい。行ってきます」
 神崎さんが微笑みながら、そっと手を引いてくれた。
 そして、電車から降りた瞬間――。


「つむぎちゃんも、赤い着物がよかったぁ!」
「ごめんね、紬も七歳の七五三の時には、赤い着物を着ようね」
 黄色い着物を着た私は大泣きをしている。


(あ、これ、三歳の七五三の時だ)


 私は咄嗟にそう思う。


 姉と私は二歳年が離れているから、七五三の時期が重なった。
 私は赤い着物が着たかったのに、姉が赤い着物を着ることになったから、私は黄色い着物を着ることとなったのだ。
 それでも、大人の都合なんてわからない私は「黄色い着物が嫌だ!」と泣き叫んでいる。


「黄色いお着物だって可愛いじゃない?」
「それに、紬ちゃんによく似合ってるよ」
 着付けをしてくれている美容師さんや両親が、一生懸命私を宥めているのに、私はそんなことはお構いなしだ。


 せっかく綺麗にお化粧をしてもらったのに、もう顔中涙でグチャグチャだ。
 今思えば、申し訳ないことをしちゃったなって思う。だって、鏡を見れば、黄色い着物だってとても可愛らしい。でも当時の私は、とにかく赤い着物が着たかったらしい。


(いい加減、泣き止まないと……)
 頭ではわかっているのに、感情のコントロールが上手くできない。
 だって、三歳の私は赤い着物が着たいのだ……!
 三歳児ってこんなに手がかかるの? と自分でもうんざりしてしまう。


 その時、事件が起きたの。
 私の目の前に若いイケメンの美容師さんが現れたのよ。
 背が高くてモデルさんのようにスタイルが抜群。しかも、綺麗な顔をしていて、私好みの顔立ちをしていた。
 そんなイケメンが、私に向かってこう言ったの。


「紬ちゃん、黄色い着物凄く可愛いね」
「え?」
「めちゃくちゃ似合ってるし。僕は赤い着物より、黄色い着物のほうがいいなぁ」
「……ほんとうに?」
「うん。まるで昔のお姫様みたいだ」


 その一言で、私のご機嫌はすっかり直ってしまったわ。
 たった三歳でもイケメンには弱いのね……。そう思うと可笑しくなっちゃった。


 その後、そのイケメンにお化粧を直してもらったわたしは、千歳飴をもって、ご機嫌で神社に出かけたの。


 神社に行っても、参拝客が「あら、可愛い七五三ね」なんて声をかけてくれるものだから、更に気分がよくなってしまった。
「私ってかわいいんだ!」
 なんて鼻歌を口ずさみながら、お参りを済ませた。


 神社で家族写真を撮ってもらったけれど、ニコニコが止まらなくて。
 私は、黄色の着物が大好きになってしまった。


 その時は自分がアルビノだから、なんていうコンプレックスは全くなかった。だから「可愛い」なんて褒められて、素直に嬉しいって思うことができた。
 ちなみに、七歳の七五三でも黄色い着物を着たの。笑っちゃうでしょう。


 この時の思いを忘れず成長することができていたら、私ももっと自分に自信をもつことができたのかしら?
 私はあの日、みんなのおかげで、一日お姫様になったような気分で過ごすことができた。


「お嬢様。そろそろ電車が発車致します。電車にお戻りください」


遠くから神崎さんの声が聞こえる。
(えー、もうちょっとだけお姫様でいたかったのに……)
少しだけガッカリしてしまう。


「じゃあね。三歳の私」
私は三歳の自分に手を振って、電車へと戻った。


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