僕らは再会後、二人で警察に出頭した。
正直、どんな罪に問われるのかとビクビクしていたけれど、たっぷりお灸を据えられる程度で済んだ。
ちょうど僕らが言いたいことを言い合っている頃に、藤枝さんのパソコンのデータが復元されていたらしい。そこからは他殺偽装の計画書や何度もトリックを試した記録や動画、さらには修真に対する恨み辛み、それでも嫌いにはなれない苦しみへの葛藤が赤裸々に綴られた文書ファイルなどが見つかった。また、修真のアリバイも監視カメラの映像とチケットの購買記録などから裏取りされ、事件は自殺として処理されたのだ。もしこれが自殺ではなく他殺であったならば捜査攪乱や犯人蔵匿、証拠隠滅などなど、怒られるだけでは済まないのだと言われた。
「いやーこれで疑いをかけられての取調べも終わりかー。次回作のためにももうちょい受けときたかったんだけどなー」
「ほんと図太いな、修真は」
もっとも、ビクビクしていたのは僕だけで、修真は終始けろっとしていた。あれだけ自分のことを臆病だとかなんだと言っていたのに、こういう耐性はあるらしい。早速ひとつ、修真の知らない一面を垣間見た気がする。
「鳴海先生。次回作もいいですが、ここまで騒ぎを大きくしたことへの対処もあるんですよ。しっかりしていただかないと」
マイペースな修真に、ずっと付き添ってくれていた御影さんが釘をさした。さすがに自身の担当編集には頭が上がらないのか、渋々でも襟元を正している。
「まあ、そうですね。いくつか方法は考えてあります。これでもミステリー作家なので、転んでもただでは起きませんよ」
「鳴海先生が勝手に落とし穴を掘ったんです。反省してください」
「……はい」
どうやらほんとに頭が上がらないようだ。僕はこっそり苦笑する。
とそこへ、唐突に肩を組まれた。
「ダイジョーブですよ、皆様方。そこについては、オレがちょっと面白くしときましたから」
「ば、馬場さん?」
「ほら、これ」
馬場さんは肩越しに、自身のスマホを見せてきた。いきなりの登場に修真はもちろん、特に御影さんは驚いていたが、意味深な言葉に全員で馬場さんのスマホ画面をのぞき込む。
そこには、つい数分前に公開されたばかりの記事が載っていた。
『ミステリー作家Nの潔白証明! 鍵になったのは親友Aとのただならぬ関係だった!?』
「ちょっと馬場さん、なんですか、ただならぬ関係って。誤解を招くでしょ、これ」
「掴みが大事なんですよ、こういうのは。ちゃんと記事の中身を読めば大丈夫です……って、いててて!?」
「かーねーにーい? 後でと言わず、今すぐ顔を貸してくれるかしら?」
悪魔にも負けないオーラと不気味な笑顔を携えた御影さんは、問答無用とばかりに馬場さんを近くにあった公園の東屋に引っ張っていった。僕と修真だけが取り残される。
「帰る?」
「いや、さすがに帰れないでしょ。修真にも関係あることだぞ?」
「まあ、そうだけど。でもこれを上手く使えば、次回作はバカ売れ間違いなしだな」
「何をどう使うんだよ。ったく」
雲間から久しぶりの太陽が顔を出していた。御影さんが馬場さんを怒鳴りつけている東屋の傍らには大きな水溜まりができており、アメンボがすいすいと泳いでいる。
のんびりしていた。
ついさっきまで、あんなにも忙しなく動き、互いの感情をぶつけ合っていたのに。
「なあ、航大」
「なんだよ、修真」
「俺らってさ、今も親友かな?」
ちょうど、僕も考えていた問いを彼は口にする。
きっかけもきっと同じ、馬場さんの記事のタイトルだろう。まったく、ほんとに馬場さんは余計なことしかしない。
「さあ、どうだろうな。修真はどう思う?」
「俺も。どうだろうな、って感じ」
「じゃあ、それでいいんじゃない」
「確かにな」
僕らは曖昧に答え合って、ひときわに大きく笑った。
そこで御影さんに手招きされ、馬場さんに助けを請われたので、僕らも東屋に向かうことにした。
空には分厚い雲が流れていた。
足元も、まだ乾いていない。
けれど、雨は降っていなかった。
空には、青さが戻っていた。
【謎解き解答一覧】






正直、どんな罪に問われるのかとビクビクしていたけれど、たっぷりお灸を据えられる程度で済んだ。
ちょうど僕らが言いたいことを言い合っている頃に、藤枝さんのパソコンのデータが復元されていたらしい。そこからは他殺偽装の計画書や何度もトリックを試した記録や動画、さらには修真に対する恨み辛み、それでも嫌いにはなれない苦しみへの葛藤が赤裸々に綴られた文書ファイルなどが見つかった。また、修真のアリバイも監視カメラの映像とチケットの購買記録などから裏取りされ、事件は自殺として処理されたのだ。もしこれが自殺ではなく他殺であったならば捜査攪乱や犯人蔵匿、証拠隠滅などなど、怒られるだけでは済まないのだと言われた。
「いやーこれで疑いをかけられての取調べも終わりかー。次回作のためにももうちょい受けときたかったんだけどなー」
「ほんと図太いな、修真は」
もっとも、ビクビクしていたのは僕だけで、修真は終始けろっとしていた。あれだけ自分のことを臆病だとかなんだと言っていたのに、こういう耐性はあるらしい。早速ひとつ、修真の知らない一面を垣間見た気がする。
「鳴海先生。次回作もいいですが、ここまで騒ぎを大きくしたことへの対処もあるんですよ。しっかりしていただかないと」
マイペースな修真に、ずっと付き添ってくれていた御影さんが釘をさした。さすがに自身の担当編集には頭が上がらないのか、渋々でも襟元を正している。
「まあ、そうですね。いくつか方法は考えてあります。これでもミステリー作家なので、転んでもただでは起きませんよ」
「鳴海先生が勝手に落とし穴を掘ったんです。反省してください」
「……はい」
どうやらほんとに頭が上がらないようだ。僕はこっそり苦笑する。
とそこへ、唐突に肩を組まれた。
「ダイジョーブですよ、皆様方。そこについては、オレがちょっと面白くしときましたから」
「ば、馬場さん?」
「ほら、これ」
馬場さんは肩越しに、自身のスマホを見せてきた。いきなりの登場に修真はもちろん、特に御影さんは驚いていたが、意味深な言葉に全員で馬場さんのスマホ画面をのぞき込む。
そこには、つい数分前に公開されたばかりの記事が載っていた。
『ミステリー作家Nの潔白証明! 鍵になったのは親友Aとのただならぬ関係だった!?』
「ちょっと馬場さん、なんですか、ただならぬ関係って。誤解を招くでしょ、これ」
「掴みが大事なんですよ、こういうのは。ちゃんと記事の中身を読めば大丈夫です……って、いててて!?」
「かーねーにーい? 後でと言わず、今すぐ顔を貸してくれるかしら?」
悪魔にも負けないオーラと不気味な笑顔を携えた御影さんは、問答無用とばかりに馬場さんを近くにあった公園の東屋に引っ張っていった。僕と修真だけが取り残される。
「帰る?」
「いや、さすがに帰れないでしょ。修真にも関係あることだぞ?」
「まあ、そうだけど。でもこれを上手く使えば、次回作はバカ売れ間違いなしだな」
「何をどう使うんだよ。ったく」
雲間から久しぶりの太陽が顔を出していた。御影さんが馬場さんを怒鳴りつけている東屋の傍らには大きな水溜まりができており、アメンボがすいすいと泳いでいる。
のんびりしていた。
ついさっきまで、あんなにも忙しなく動き、互いの感情をぶつけ合っていたのに。
「なあ、航大」
「なんだよ、修真」
「俺らってさ、今も親友かな?」
ちょうど、僕も考えていた問いを彼は口にする。
きっかけもきっと同じ、馬場さんの記事のタイトルだろう。まったく、ほんとに馬場さんは余計なことしかしない。
「さあ、どうだろうな。修真はどう思う?」
「俺も。どうだろうな、って感じ」
「じゃあ、それでいいんじゃない」
「確かにな」
僕らは曖昧に答え合って、ひときわに大きく笑った。
そこで御影さんに手招きされ、馬場さんに助けを請われたので、僕らも東屋に向かうことにした。
空には分厚い雲が流れていた。
足元も、まだ乾いていない。
けれど、雨は降っていなかった。
空には、青さが戻っていた。
【謎解き解答一覧】









