ノイズ爆音につき注意


 ひとりでギターを弾く気にもなれなくて、最近は練習も適当になっていた。
 音を出すと、あの言葉が頭をよぎる。

 ――ひとりでやってろよ。

 ほんとに、そうなったな、って。

 なんとなく校舎を出る気になれず、旧校舎のほうを歩いていた。

 階段を上がりかけたときだった。

 微かに、音が聞こえた。

 最初は、空耳かと思った。
 風の音か、どこかの教室から漏れてきた音楽か。

 でも、違った。

 ――歌声だ。

 イヤホン越しなのか、少しこもっている。
 それでも、はっきり分かるくらい、真っ直ぐな声。

 足が、勝手に止まった。

 静かな旧校舎に、その声だけが響いている。
 上手い、とか、下手、とかじゃない。

 ......必死だった。

 音程を追いかけるみたいに、歌詞を噛みしめるみたいに。

 サビに入った瞬間、空気が変わった。

 声が少しだけ強くなる。
 抑えてたものが、堪えきれずに溢れたみたいに。

 胸の奥が、ぎゅっと掴まれた。

 ――あ。

 久しぶりに、思った。

 音楽って、こうだったよな。

 うまくやるためじゃなくて、誰かに勝つためでもなくて。

 ただ、好きだから鳴らす。

 気づいたら、階段を駆け上がっていた。
 足音が響いて、我に返る。

 ......でも、止まれなかった。

 踊り場に座っていたのは、クラスメイトの悠真だった。
 イヤホンをつけたまま、驚いた顔でこっちを見る。

 その瞬間、全部が腑に落ちた。

 あぁ、こいつだ。

 こいつなら、同じ温度で、音楽やれるかもしれない。

 だから、俺は笑って言った。

 「――みつけた!」