終焉の戦歌

 石の扉が重く閉じられる音が、神殿の深部に響き渡る。



ニコラス、レアナ、そしてエリオットの足音が石造りの廊下に吸い込まれていく。



何度も何度も回り道をし、ついにたどり着いたこの場所で、彼らは運命の分岐点に立っていた。



 壁の一部が微かに光り、その光を追うように3人の視線が集まる。



その光の源は、まるで生き物のように脈打っている、巨大な黒い結晶だった。結晶自体が呼吸をしているかのように揺れ動き、時折その中からかすかな音が響く。



それは、彼らが触れてはいけない何かを告げているようだった。



 「これが……」



 レアナが息を呑む。



 「封印を解いたもの?」



 「違う、これは別のものだ」



 ニコラスが静かに答える。



 「神殿が持っていた力とはまた違う。だが、この感覚……」



 エリオットが眉をひそめて言った。



 「なんだか、知っている気がする」



 その言葉を聞いた瞬間、ニコラスの胸に冷たい何かが走った。



エリオットが感じたその何か、それは明らかに異常で、不穏な気配だった。



神殿の奥深くに隠されていた力。それは、封印されたはずの何かだった。



 「神殿の核心に触れた……?」



 レアナが囁くように言う。



 「でも、何かが変だ。これは……封印された場所じゃない」



 ニコラスは結晶の周りに刻まれた古代の文字に目を落とす。それらは彼の記憶の奥底に浮かぶものと、重なるような気がした。



 「見たことがある気がする……」



 エリオットがつぶやく。その声には、驚きと同時に不安が漂っている。



 「これ、封印のように見えて、実は……ただの鏡のようなものなんじゃないか?」



 その言葉に、ニコラスは目を見開く。そうだ、この結晶が放つ光が、ただの力の源ではなく、何かを反射する鏡だったとしたら。



 「おい、みんな、気を付けろ!」



 ニコラスが声を荒げて叫ぶ。その瞬間、結晶が激しく揺れ動き、周囲の空気が歪んでいくのを感じた。



 その歪みの中から、突然、姿が現れた。最初はただの影だったが、次第にその形が鮮明になり、とうとうその姿がはっきりと見えた。



 それは、まるで人間のようでありながら、人間ではない、全身が黒い霧に包まれ、目は真っ黒な闇のように深く、何も映し出していない。



それがゆっくりと、ニコラスたちの方へ歩み寄ってくる。



 「亡霊……?」



 レアナが恐る恐る呟く。



 「違う、亡霊ではない」



 ニコラスは答える。



 「これは……過去の何かがここに繋がっている」



 その何かの正体がわからぬまま、影はさらに近づき、まるで存在を証明するかのように静かな声を発した。



 「お前たちが解放したものを知っているか?」



 その声には、冷たさとともに、深い歴史の重さが含まれていた。ニコラスはその言葉の意味を理解する前に、答えを返すことができなかった。



 「解放されたもの?何を言っている?」



 レアナが声を震わせながら質問を投げかける。



 「この神殿には、忘れ去られた力が封じられている。しかし、お前たちはそれを知らずに触れた。解放してしまった。」



影がゆっくりと語るその声は、まるで数千年の歳月を経て響いているかのようだった。



 「その力を受け入れるか、拒絶するか。それがお前たちの選択だ」



 ニコラスは瞬時にその言葉の意味を理解する。



 「ならば、解放された力とは一体何なんだ?」



 影の存在が、まるでその問いを待っていたかのように、ゆっくりと答える。



 「それは、封印される前の神殿の守護者。お前たちが触れたものは、ただの結晶ではない。過去の神々の力を宿した、かつての守護者たちの残滓だ」



 その言葉が、神殿の奥から立ち上る不気味な振動とともに、ニコラスの心を震わせた。



守護者、過去の神々――それらの言葉が、彼の頭の中で反響し、まるで運命の一端を引き寄せるかのように重くのしかかる。



 「過去の神々?」



 レアナがその言葉に反応する。



 「それじゃあ、これって神殿の守護者の霊、みたいなもの?」



 「そうだ、だがただの霊ではない」



 影は再びその存在を強調するように言葉を紡いだ。



 「これは、かつて神殿を守っていた者たちの力を引き継いだ存在だ。しかし、今は力が暴走している。お前たちは、その封印を解いてしまったのだ」



 その瞬間、ニコラスは背筋に冷たいものが走るのを感じた。



もし、この存在が過去の神々の力を引き継いだ者ならば、その力が暴走すれば、神殿の封印どころか、世界の全てが崩れ去ることになる。



 「どうすれば、この暴走を止められる?」



 ニコラスは問いかける。その声には、覚悟と共に必死さが滲んでいた。

 影はしばらく沈黙した後、ゆっくりと答える。



 「それは、もう遅い。しかし、お前たちがするべきことは1つだけ。お前たちがこの場所で見つけたもの、それを封じ込めなければならない。さもなくば、世界は破滅する」



 その言葉を聞いた瞬間、ニコラスは強烈な決意を胸に刻んだ。この神殿の秘密、そしてその力がどれほど危険であっても、それを止めるために彼は戦わなければならない。



 だが、その力を封じ込める方法が分からない今、唯一確かなことは、彼らが進むべき道が暗闇に包まれているということだけだった。



 影の声が響く中、ニコラスは身動きが取れずに立ち尽くしていた。まるでその言葉が全てを縛り付けているかのように、彼の体が重く感じられた。



 「それならば、この力をどうするべきなのか?」



 ニコラスが必死に尋ねた。自分でも何を問うているのか分からなかったが、今はただ答えを求めるしかない。



 影の形がわずかに揺れ、そして言葉が続く。



 「お前たちが解放したものは、ただの守護者ではない。神殿の力を封じ込めるために存在していたものだ。封印が解かれたことで、その力が目を覚ました」



 ニコラスの心がざわつく。神殿の力を封じ込めるために存在していたもの、それは一体どれほど恐ろしい存在なのか。



 「そして今、その力が暴走している。お前たちがここに来ることは、運命の一部であったのかもしれない。だが、暴走を止める方法はもうない」



 影の声が冷たく響く。



 「止める方法がない?それじゃあ、どうするんだ?」



 レアナが声を震わせながら問いかける。彼女の目には明らかな恐怖が宿っていた。



 「唯一の方法は、もう一度封じ込めることだ。しかし、その力を再び封じるには、古代の儀式を行わなければならない」



 影が続ける。



 「古代の儀式?」



 エリオットが驚きの声を上げる。



 「そんなことができるのか? ここにその手がかりがあるというのか?」



 「その儀式を行うためには、古代の遺物を集めなければならない」



 影が語るその言葉には、かすかな希望の光も感じられるような響きがあった。



 「その遺物は、この神殿の中に隠されている。だが、注意しなければならない」



 影の姿が急にぼやけ、暗闇の中に溶け込むように見える。



 「封印を解いた力は、もう一度封じ込めることを許さない。それに挑む者には、必ず代償が伴う」



 その言葉に、3人の心が一瞬で凍りついた。代償。それは、単なる犠牲や苦しみを意味するのか、それとももっと恐ろしいものが待ち受けているのか。



 「代償……」



 レアナが小さくつぶやく。彼女の顔に浮かんだ表情は、理解と不安が入り混じったものだった。



 「それなら、どうすればいい?」



 エリオットが声を震わせながら尋ねる。



「封印を再び行うためには、何を集めればいいんだ?」



 影の姿が再びはっきりと現れる。その眼差しが3人に向けられ、冷たい風が神殿の中に吹き抜けた。



 「まずは、神殿の奥深くに眠るものを探さなければならない。それが最初の遺物だ」



 影が語る。



 「その遺物は、恐らくこの場所の最も深い部分に隠されている。だが、その場所にはもう1つ、目を覚まさせてはいけないものが眠っている」



 「目を覚まさせてはいけないもの?」



 ニコラスが眉をひそめる。



 「それは、どういうことだ?」



 「それは…⋯お前たちが触れてはいけない力だ」



 影が低い声で続ける。



 「その力を解放すれば、世界が崩壊する。神殿を守る者たちは、その力を封じるために全力を尽くしたが、それでも……完璧に封じることはできなかった」



 その言葉に、3人は再び言葉を失う。



これまでの神殿の探索が、ただの偶然のように思えてきた。その先に待っていたのは、予測できないほどの危険と、誰も想像し得なかった力の存在だった。



 「ならば、どうしてその遺物を集めることができるんだ?」



 レアナが疑念を隠せない。



 「――封印を再び行うことができるのか?」



 影の形がわずかに歪み、そのまま空気の中に消えそうになる。だが、彼の声は依然として響き渡る。



 「それはお前たちの選択だ。だが、1つだけ言っておこう。封印を行うためには、犠牲を伴う。お前たちがその遺物を集めることができたとしても、それは誰かの命を必要とするだろう」



 その言葉に、ニコラス、レアナ、エリオットの目は一瞬で見開かれた。



犠牲。それが何を意味するのか。誰かの命を代償にするということが、どれほどの重さを持つのか、彼らには分かっていた。



 「それを承知の上で、進むのか?」



 影が問いかける。



 「俺たちは…⋯進まなければならない」



 ニコラスが静かに答える。彼の目は決して揺るがなかった。



 「アーサーの暴走を止めるために、俺たちは全てを賭ける覚悟だ」



 その言葉に、影はしばらく沈黙した後、ゆっくりと答える。



 「ならば、選択の時は迫っている。お前たちの運命が、この神殿の奥で決まる」



 影の姿が再び歪み、やがて完全に消え去った。その後、神殿内は再び静寂に包まれる。



 ニコラスは深く息を吸い、周囲を見渡す。



神殿の中は、どこか異常な静けさを保っていた。だが、その静けさの中には、確かに何かが待ち構えているような不安が漂っていた。



 「遺物を集める……でも、その先に待つのは一体どんな試練なんだ?」



 レアナが呟く。



 「分からない」



 ニコラスは答えた。



 「でも、俺たちは進むしかない」



 エリオットが剣を握りしめ、決意を固めるように言った。



 「どんな代償が待っていようとも、アーサーを止めるためには、これ以上の選択肢はない」



 3人は再び、神殿の奥へと足を踏み出した。



今、彼らが進もうとしている道が、どれほど危険であるかを知りながらも、その足音は静かに響き渡った。




 神殿の奥深くに進み続ける中、ニコラスたちの心は次第に重くなっていた。



遺物を集めるために、この神殿に残された試練を乗り越えなければならない。



だが、彼らの胸中には、目の前に迫る更なる試練――そしてそれが意味する未来への不安が大きくのしかかっていた。



 「遺物を集めるためには、この神殿内でどこかに隠されているものを見つけなければならない。それがどんな形をしているか、どこにあるのかもわからない。でも、それを手に入れるために私たちにはもう、他に道はない」



 ニコラスが言った。顔には決意と共に、どこか遠くを見つめるような表情が浮かんでいた。



 「でも、もしそれが本当に力を持っているものなら、私たちだけで解放していいのか?」



 レアナの言葉に、エリオットが深いため息をついた。



 「それが唯一の方法なんだろう。誰もが恐れるその力を解き放って、封印を解く。私たちがここまで来た以上、それを止めることはできないだろう」



 その時、神殿の中に微かな音が響いた。足音のような、そしてそれに続く何かが動き出すような不安を感じさせる音だ。



 「何かが近づいてくる……!」



 レアナが鋭く感じ取る。その気配がどこから来るのかは分からなかったが、確実に何かが動き出している。ニコラスも目を凝らして周囲を警戒した。



 「気を付けろ……!」



 しかし、その瞬間、神殿内の壁がひび割れ、低い轟音が響き渡った。突然、空気が震えるような感覚が全身を包み、神殿の隅々から異様な気配が立ち込めてきた。



 「これは……!」



 ニコラスが叫ぶ間もなく、壁が開き、そこから巨大な影が現れた。それは人間の姿をしていたが、その顔はひどく歪んでいて、目は何も映さない空虚な瞳だった。



 「人間ではない……!」



 エリオットがその姿に驚愕し、背を向けて警戒を強める。



 「それは亡霊だ。古代の者がその魂を封じ込めた守護者。神殿を守るために永遠にここに留まる存在だ」



 レアナが冷静に説明する。その声には恐れを感じさせない強い意志が込められていた。



 「ならば、あの亡霊を倒さないと、先には進めないということか?」



 ニコラスは剣を抜き、構えを取った。その目には、決して後ろには引かない覚悟が見えていた。



 「亡霊の力は強大だ。それを倒すには、特殊な方法が必要だろう」



 エリオットが冷静に分析する。しかし、亡霊はその言葉を聞くことなく、無音で迫ってきた。



 「これ以上進むことは許されない……」



 亡霊が低く呟く。その声は、霧のように薄く、冷たい。



 ニコラスは一歩前に踏み出し、剣を振りかざした。しかし、亡霊の体は空気のように透けていて、剣が全く通じない。



 「物理的な攻撃では無駄だ」



 レアナが、亡霊の動きに合わせて慎重に言う。彼女の目は冷徹で、焦りを感じさせない。



 その瞬間、ニコラスが何かを思いついたように目を細めた。



 「ならば、逆にその封印に関連する力を使えばいい。神殿内に何か、封印の力に関わるものがあるはずだ」



 「封印の力……それが鍵か」



 エリオットが呟くと、神殿の床の一部が光を放ち始めた。そこには、まるで刻まれたように文字が浮かび上がっていた。



 「これか……!」



 レアナがその文字を見つめる。その文字は古代の言葉で、亡霊の力を抑えるための呪文だった。



 「この呪文を唱えれば、封印の力を使い、亡霊を沈めることができるはずだ」



 ニコラスが力強く言うと、エリオットもそれに続く。



 「それなら、早く!」



 レアナはその呪文を唱え始めた。古代の言葉が空気を震わせ、神殿全体に響き渡る。



 亡霊はその瞬間、痛みのように顔を歪ませ、叫び声を上げる。だが、次の瞬間、封印の力が神殿内に満ち、亡霊はやがてその姿を消していった。



 「倒した……」



 ニコラスが息を呑む。その目に浮かぶのは、勝利の安堵と同時に、深い疲れだった。



 「だが、これで終わりではない」



 レアナが言うと、再び神殿の空気が変わった。何かが変わったような感覚が全身を包み込む。



 「まだ先がある……!」



 ニコラスはその先に待ち受ける試練を感じ取った。



 その時、神殿の中で新たな声が響く。



 「封印が解けたか……」



 その声は、重く、冷徹で、どこか懐かしささえ感じさせた。



 「お前たちが、我々の試練を越えられるとは思わなかった」



 神殿の奥から現れたのは、1人の男だった。その姿は、まるで神殿の守護者のような威厳を持っていた。



 「一体、あなたは誰だ?」



 レアナが警戒しながら尋ねる。



 男は静かに微笑む。



 「私は、かつてこの神殿の主だった者だ。だが、今はこの神殿の力が目覚めたとき、全ての運命が動き出す」



 その言葉に、ニコラスたちは圧倒された。男の言う運命、そして神殿に眠る力とは一体何を意味するのか。



 「これから、王国の運命が揺れ動く時が来るだろう。お前たちも、その一端を担う者となる」



 その男の言葉に、神殿の中が再び静寂に包まれた。

 

 神殿からの帰路に、ニコラス、レアナ、エリオットの足取りは重かった。



扉が閉じ、あの地下の空間を背にした瞬間、彼らの心にも変化が訪れた。それまでの静けさが徐々に砕け、次第に不安と警戒が募ってきた。



「ここを出てからも、気を抜けないわね」



 レアナが振り返りながら言った。彼女の目には、あの神殿の奥に何かが眠っているという確信と、予感が混じったような色が浮かんでいた。



「確かに。あの場所、何かが目覚めた気がする」



 エリオットが眉をひそめながら答えた。彼の視線は遠く、神殿が今も彼らを見守っているかのような感覚に捉えられているようだった。



 ニコラスは前を歩きながら、ふと足を止めた。森の静けさが耳に響き、木々が風に揺れる音が聞こえたが、彼の心にはまだ神殿の中で感じた異常な力が残っていた。



「どうする?」



 レアナがニコラスに声をかけると、彼は少し考えた後、深く息をついた。



「一度、レアナの家に戻ろう。あそこでゆっくり考える時間を作らないと、次に進むための手がかりもつかめない」



「そうね、急いで帰りましょう」



 レアナが答え、エリオットも黙って頷いた。



 彼らは再び歩き始めた。無言のうちに、だんだんと森の奥深くから脱出し、少しずつ明るい場所へと足を踏み入れていく。



その歩調は、いつの間にか心を落ち着けるようなリズムを刻んでいた。だが、その歩みが進むたびに、ニコラスの胸には、あの神殿で感じた気配がちらついていた。



 やがて、日が沈みかけた頃、彼らはレアナの家に到着した。小さな家は、周囲の森の中に静かに佇んでいる。



レアナが扉を開けると、温かな光が漏れ、外の冷気を一瞬にして遮った。



「少し休んで」



 レアナがそう言ってニコラスとエリオットを迎え入れる。



部屋の中には、暖炉の火がパチパチと音を立てて燃えており、心地よい温もりが広がっていた。家の中に入ると、ようやく深呼吸をし、ほっと一息つくことができた。



「少しの間、休もう。神殿のことも気になるけど、今は無理に考えすぎない方がいい」



 エリオットが言った。



「そうだな。でも、考えなければいけないことは山積みだ」



 ニコラスが答えると、レアナは疲れた様子でソファに腰を下ろしながら言った。



「神殿の封印が解けた。それに、私たちが見たもの……あの力が、何かとんでもないことを引き起こす前触れかもしれない」



 その言葉に、ニコラスも頷き、ゆっくりと椅子に座った。



「神殿で見つけたものは、すべて神聖なものだった。だから、あれを手に入れたとしても、簡単に使えるわけじゃない」



「でも、どこかでそれを使わなきゃならない……」



 エリオットが低い声で続けた。



 その瞬間、ドアが軽くノックされた。



「誰だ?」



 レアナが答えると、外から声が聞こえた。



「私です、レアナ」



 その声は、聞き覚えのあるものだった。レアナが立ち上がり、ドアを開けると、そこには彼女の父親、リオナルドが立っていた。



「お父さん?」



「お前たちが戻ったのか。今、少し話がしたい」



 リオナルドは真剣な顔で言った。その様子に、レアナは一瞬、警戒の色を見せたが、すぐに家に迎え入れた。



「どうしたの、父さん?」



 レアナが尋ねると、リオナルドは一歩踏み込んで、静かに言った。



「実は、外の村で異変が起きている。村人たちの話によると、あの神殿に関連する何かが動き始めたらしい」



「異変?」



 ニコラスが鋭い眼差しで尋ねると、リオナルドは肩をすくめた。



「そうだ。村の北の方で、夜な夜な奇怪な光が見えるようになった。誰も近づかないようにしているが、これもあの神殿の封印が関わっているのかもしれん」



「封印……解けたんだ」



 レアナがぽつりとつぶやいた。



「そうだ。だから、もう時間がない。何か手を打たねば、このままでは世界が……」



 その言葉に、彼らの心は一層、暗い予感で満ちた。