薄明かりの差し込む森の奥深く、ニコラスたちは再びあの封印された神殿の前に立っていた。そこは地図にも記録にも存在しない忘れられた場所記録なき神殿だった。
「ここに来るのは、2度目だけど……やっぱり不気味だな」
レアナが小声でつぶやく。
「俺たちが封印を一時的に止められたのは奇跡だ。だが、この神殿の秘密を解かない限り、またあの恐怖は戻ってくる」
ニコラスは剣の柄を握りしめ、決意を新たにした。
彼らは入口の扉に手をかけた。冷たい石の感触と共に、古代文字が淡く輝き始める。だがその言葉は誰にも解読できなかった。
「記録がないってことは……この神殿は、何か特別な秘密を隠しているに違いない」
エリオットが慎重に言葉を選んだ。
その時、森の風が一瞬止まり、まるで神殿自体が彼らの来訪を見守っているかのようだった。
ニコラスがゆっくりと扉を押し開けると、そこは想像以上に広大な空間だった。石壁に刻まれた無数の紋章と、ひんやりとした空気が立ち込めている。
だが、どこか異質な空気が漂い、まるで時間が止まっているかのようだった。
「見て、ここに…⋯」
レアナが壁の一角に浮かび上がる不思議な紋章を指差した。
「これ、さっきの古代文字と似てる。でも意味は分からない…⋯」
エリオットは周囲を警戒しながら答えた。
「記録がないからこそ、我々の想像が試される場所だ。気を引き締めていこう」
その瞬間、薄暗い空間の奥から、かすかな光がゆらりと揺れ動いた。
「誰かいるのか?」
ニコラスが声を潜めて問いかける。
返事はなく、ただ静寂が広がるだけだった。
「私たちは何か、見えざるものに試されているのかもしれない…⋯」
レアナがそう言った。
薄暗い神殿の奥深く、3人は慎重に足を進めた。
石の床は冷たく硬く、所々にひび割れが走っている。壁に刻まれた紋章や文字は、古代の文明の痕跡を物語っていたが、その意味を理解できる者はこの世界にほとんどいない。
「この場所には、きっと隠された何かがある…⋯」
エリオットが呟いた。
「私たちが探しているのは、アーサーの起源に繋がる手がかりだ」
レアナが続ける。
ニコラスは剣の柄を握り締めながら、周囲に気を配った。
突然、壁の一部がわずかに震え、ゆっくりと開き始める。そこには、螺旋状の階段が地下深くへと続いていた。
「行くしかない…⋯」
ニコラスが言うと、3人は息を整え、暗い階段を降りていった。
階段を下りきると、そこは巨大な地下洞窟のような空間だった。中央には巨大な結晶が天井から吊り下げられていて、かすかに青白い光を放っていた。
「これが……エーテリウムの源泉のひとつかもしれない…⋯」
レアナがつぶやく。
「こんな場所を知られてはいけない……」
エリオットが言いかけたその時、背後から微かな足音が響いた。
振り返ると、暗闇の中に人影が浮かび上がる。
「待っていたぞ、旅人たちよ」
冷たい声が響いた。
その声の主は、黒いローブを纏った男だった。顔は影に隠れているが、その瞳だけは青白く輝いていた。
「誰だ……?」
ニコラスが警戒を強めた。
「私はセラン連邦の密偵、カイ・ヴァルク。ここで何をしている?」
「封印の調査だ。アーサーの謎を解明するために、この場所を訪れた」
レアナが答えた。
カイはゆっくりと近づき、冷ややかな笑みを浮かべた。
「面白い。君たちの目的は我々の研究と重なるかもしれない。だが、この秘密は決して外に漏れてはならない」
「それなら協力しろ」
エリオットが言い放つ。
「簡単にはいかない」
カイはそう告げると、手をかざし、エーテリウムの結晶から放たれる光を増幅させた。
その瞬間、洞窟の壁が淡く輝き、未知の記号が浮かび上がる。
「この神殿の歴史は、世界の歴史よりも古い。ここに眠る力は、破滅か再生かを選ぶ鍵となる」
3人は息をのんだ。
「お互いの信念がぶつかり合う時、真実が見えるかもしれないな」
カイは静かに言った。
その言葉に、ニコラスの胸は重くなる。
歴史の重み。それらが頭の中を巡り、胸の奥に湧き上がる不安に押し潰されそうだった。
「じゃあ、何をすべき?」
レアナが、少し早口で聞いた。彼女もまた、この場所の持つ異質な雰囲気に警戒している様子だった。
カイは一歩後ろに下がり、薄暗い神殿内に響く声で語り始めた。
「我々の調査では、この神殿が封印の中心であることがわかっている。この場所のエーテリウムは特異な性質を持ち、恐らく世界の命運を握っている。だが、そこに潜む力は不安定だ。封印の力を高めることができれば、世界の安定を取り戻せる。しかし、それが暴走すれば、世界そのものを滅ぼしかねない」
「どうすればその力を制御できる?」
ニコラスが問いかけた。
カイはしばらく黙ってから、深く息を吸い込んだ。
「我々の調査によると、この場所には1つの鍵が必要だ。その鍵を手に入れれば、封印の力を完全に操ることができるだろう。しかし、その鍵はここから遠く離れた場所、雪に覆われた山脈の奥深くに眠っている」
レアナはその話を聞いて、思わず眉をひそめた。
「雪山か……」
彼女は低く呟く。
「そんな場所で何を探せばいいんだ?」
カイの顔に冷徹な表情が浮かぶ。
「その鍵は、封印を強化するための遺物だ。しかし、その場所はただの山脈ではない。かつて、古代の神々が閉じ込めた禁忌の力が封じられている場所でもある。それを探し出し、取り戻さなければならない」
「禁忌の力…⋯?」
エリオットが興味を示し、慎重に言った。
「それは、いったい何なんだ?」
カイは目を細め、少し考えるようにしてから答える。
「それについて詳しい情報は我々にも少ない。しかし、古代の記録によると、その力は神々が使ったエーテリウムそのものであり、時を超えた神殿の力の源だと言われている。誰かがその力を使えば、世界を創り変えることができるかもしれないが、逆に使い方を誤れば、無限の破壊を引き起こすだろう」
その話を聞き、ニコラスは目を見開いた。
「もしそれが手に入れば……」
「世界を変えられるだろう、ということだ」
とカイが続けた。
「しかし、私はその力が暴走することを恐れている。だからこそ、我々はその力を手に入れ、それを封印するために動いている」
レアナはしばらく黙って考え込んでから、慎重に口を開いた。
「でも、その鍵が見つかるまで、アーサーの暴走をどうするつもり?」
カイはその質問に答えることなく、少しだけ目を閉じた。
「私たちには、アーサーに立ち向かうための力も必要だ。だが、まずはこの神殿で進めるべき作業がある。君たちには、少しの間ここに留まってもらう必要がある」
「留まる?」
エリオットが問いかける。
「はい。ここに来る途中で気づかなかっただろうが、この神殿には特殊な封印が施されている。封印を解除するためには、いくつかの条件をクリアしなければならない。それに必要なものを探し出し、私はその解除の手助けをする」
「……条件?」
ニコラスがその言葉に違和感を覚えながら尋ねた。
カイは冷静に答えた。
「そうだ。この神殿にはいくつかの遺物が隠されている。それらを見つけ出し、封印の解除に必要な力を集めなければならない。その間に、君たちが知っていることを教えてほしい。アーサーの暴走に関して、何か手がかりがあれば、私たちもその力を有効に活用できるかもしれない」
ニコラスはその言葉に思案しながら答える。
「わかった。俺たちの調査でも、アーサーがエーテリウムの力に取り憑かれていることはわかっている。それが彼を支配し、暴走させている原因だと思う。でも、それだけではどうにもならない。あの男の過去と、何が彼をこうさせたのかを知ることが、俺たちにできる最初のステップだ」
「過去…⋯か」
カイは何かを考えるように呟き、その後、ゆっくりと頭を下げた。
「では、君たちの調査が進むのを待っている。しかし、ここにいる限り、この神殿の中で起こることには注意を払う必要がある。私たちの目標は、アーサーの暴走を防ぐことだが、それだけでは済まない。神殿に眠る力が目覚めれば、それがすべてを飲み込んでしまうだろう」
ニコラス、レアナ、エリオットは互いに顔を見合わせ、決意を新たにした。
「じゃあ、動き出す時だな」
ニコラスが口を開いた。
「俺たちは、何としてもアーサーを止める。そして、この力の封印を解き、真実を掴むんだ」
その言葉に、カイは静かに頷いた。
「その通りだ。だが、その道のりは決して楽ではない。覚悟を決めて、共に進むべきだ」
3人はその決意を胸に、再び神殿の奥へと足を踏み入れるのであった。
神殿の奥へ進んでいくにつれて、空気はますます冷たく、重くなった。
足元の石床は冷たく硬く、壁に刻まれた古代の紋章は薄暗い光を放ちながら、どこかに力強いエネルギーが満ちていることを感じさせた。
ニコラスは剣を手に、注意深く周囲を見渡しながら歩みを進める。
「何だか、この先に大きな何かが待っている気がする……」
レアナが低い声で呟いた。彼女の目にも、神殿の深層から伝わる不気味な気配が感じられるようだった。
「気を引き締めていこう。何かが起こるのは確かだ」
ニコラスが言うと、エリオットも頷き、足を速めた。
それからしばらく進むと、神殿の中でも特に深い場所に辿り着いた。
ここでは、壁の石が滑らかで、一部はまるで人の手で磨かれたように美しく整えられていた。
何か異常なほどの整然とした空間が広がっており、どこか不安を覚えるほどだった。
進むほどに、時間が止まったかのような感覚に包まれる。
「ここが……何かの中心だろうか?」
エリオットが辺りを見渡しながら言った。
「可能性は高い。気をつけろ、何か仕掛けがあるかもしれない」
ニコラスが慎重に答える。彼の目は鋭く、周囲の細かな変化に注意を払っていた。
その時、突然、前方に大きな石扉が現れた。
長い間閉ざされていたようで、表面には苔と土がこびりついている。
しかし、扉の中心に浮かび上がる奇妙な光に気づいたニコラスは、一瞬足を止めた。
「見ろ、あの光……何かの印か?」
レアナが呟いた。その光は、ゆっくりと動くように見えた。まるで扉そのものが生命を持っているかのような不思議な感覚を覚える。
ニコラスは扉に近づき、手をかけた。冷たい石の感触が伝わり、彼の指先がわずかに震える。
しかし、扉は硬く閉ざされており、無理に開けようとすると、その光がさらに強くなった。
「何かをしないと開かないようだな」
ニコラスは低く呟き、周囲を再び見回した。
すると、壁の一部がわずかに動いたように見えた。その壁に触れることで、何かの仕掛けが解けるのかもしれないと直感的に思った。
「壁……何かのパターンが刻まれている」
エリオットが壁の表面に触れ、じっくりとその模様を確認した。
古代の文字や複雑な紋章が無数に彫り込まれており、どれも解読は不可能だが、明らかにそれぞれが意味を持っていることは感じ取れる。
「この壁を調べてみる必要がありそうだ」
レアナが慎重に言うと、彼女も壁に手を当ててみた。すると、壁が微かに震え、低い音が響いた。
「これは……?」
ニコラスが警戒を強めたその瞬間、壁の一部がゆっくりと開き、内部に隠されていた小さな部屋が現れた。
部屋の中には、一本の古びた杖と、金属製の箱が置かれていた。
「これが……必要なものか?」
ニコラスが箱に近づき、手をかけた。その瞬間、箱から強烈な光が溢れ出し、部屋全体を照らした。
「うっ……!」
一瞬、彼の視界が白くなり、耳鳴りのような音が響いた。しかし、光はすぐに収まり、箱の中には何かが浮かんでいるのが見えた。それは、まるでクリスタルのような透明な石だった。
「これ……何だ?」
エリオットが一歩前に出て、その石を覗き込んだ。石は手のひらサイズで、どこか神秘的な輝きを放っている。それが何かの鍵であることは間違いないだろう。
「これが、封印を解くために必要なものだろうか?」
レアナが小声で呟いた。
「確かに、これが試練の1つだったのかもしれないな」
ニコラスがその石を手に取り、慎重に検討した。
だが、彼の手に触れた瞬間、石がひんやりと冷たく感じ、何か不安定な力を放っているような気がした。
その時、突然、遠くから低い轟音が響いた。地面がわずかに揺れ、壁がひび割れる音が聞こえてきた。
「何だ、今の音は?」
エリオットが声を上げ、周囲を警戒しながら耳を澄ました。
「わからない……」
ニコラスがその場から身を引き、周囲を見回すと、神殿の奥から重い足音が近づいてくるのが聞こえた。
何か巨大な存在が近づいているような感覚が、すべての神経に走った。
「急いで戻るか?」
レアナが尋ねたが、ニコラスは一瞬考え込んだ。
「今さら戻れない。何かが進行しているんだ。とにかく、進もう。これを持っている限り、封印の力を操れるかもしれない」
そう言って、ニコラスは石をしっかりと握りしめ、再び奥へ進む決意を固めた。
その先に待ち受けるのは、さらに深い謎と、恐るべき試練なのだろう。
しかし、それを乗り越えなければ、この神殿の力を解放し、アーサーの暴走を止めることはできないと確信していた。
ニコラスは足を速め、レアナとエリオットを引き連れて、神殿の奥へ進んだ。
壁が揺れる音、ひび割れる音がますます強くなり、まるで神殿そのものが目覚めようとしているかのような感覚を覚えた。
「急ごう!」
ニコラスが声を上げると、レアナとエリオットは無言で頷き、さらに歩みを進めた。石の床を踏みしめるたびに、微かな振動が全身に伝わり、胸が高鳴る。
そして、ついにその巨大な存在の正体が明らかになった。
前方に、ひときわ大きな扉が見えた。それは今まで見たどんな扉よりも重厚で、圧倒的な存在感を放っている。
扉の上部には、古代の文字が彫り込まれており、その下には恐ろしいほど精緻な紋章が浮かび上がっていた。
まるでそれが、神殿の中で最も重要な場所であることを示すかのようだった。
「これが……」
レアナが息を呑んでその扉を見つめた。
「この先に、何があるんだろう…⋯?」
ニコラスは無言でその扉に近づき、手をかけた。
その瞬間、突如として重々しい音が響き、扉がゆっくりと開き始めた。
隙間から漏れ出す光が、まるでそれ自体が生き物のように動き、神殿の空気を変えた。
扉の向こうには、広大な空間が広がっていた。
その中心に、巨人のような存在が立っていた。
それは人間の形をしているが、圧倒的な大きさと威圧感で、まるで神殿の守護者であるかのように見えた。
金属のように硬い外皮が全身を覆い、頭部には数本の角が突き出ている。目は深い黒色で、すべてを見透かすような冷徹な視線を向けてきた。
「な、なんだあれ……?」
エリオットが震える声で言った。
「それは……」
ニコラスがその巨人を見つめ、冷静に答える。
「おそらく、封印された神殿の守護者だろう。封印を解こうとする者を試すための存在だ」
その言葉を聞いた瞬間、巨人が動き出した。
その動きは鈍重に見えるが、どこか神秘的な力を感じさせる。両手を天高く掲げると、周囲の空気が一変し、地面が震え始めた。
「やはり……来たか」
ニコラスは剣を抜き、構えた。レアナも弓を手に取る。
「私たちを試すつもりなら、受けて立とう!」
エリオットは槍を握りしめ、その身を低く構えた。
巨人はゆっくりと両手を下ろし、手のひらを大きく広げる。その動きに合わせて、周囲の空間が歪み、恐ろしい力が集まり始めた。
「気をつけろ!」
ニコラスはその一瞬を見逃さず、すぐに身を引いた。
次の瞬間、巨人の手のひらから、巨大なエネルギー波が放たれた。
それは目にも留まらぬ速さで、ニコラスたちを襲う。エリオットが瞬時に槍を振るうと、そのエネルギー波は槍の先端にぶつかり、爆発的な衝撃が広がった。
だが、エリオットはその衝撃を受け流すことができず、足元をすくわれ、地面に倒れ込んだ。
「エリオット!」
レアナがすぐに駆け寄ろうとするが、その前に再び巨人の手が動き、もう1度エネルギー波が放たれる。
「逃げろ!」
ニコラスが叫び、レアナを引っ張ってその場を離れた。しかし、エネルギー波はまるで追いかけるように、2人に迫ってきた。
その時、ニコラスはふと、手に握っていたあのクリスタルを思い出した。あの石が封印の鍵なら、これを使えば何かできるかもしれないという直感が働いた。
「レアナ、エリオットを頼む!俺はあの石を使ってみる!」
ニコラスはその言葉を残し、再び巨人の放ったエネルギー波を受けながら、クリスタルを掲げた。
すると、クリスタルが手の中で微かに光を放ち、次第にその光が強くなった。光は周囲の空間を飲み込み、まるで巨人が放つ力を反射するかのように、強力なエネルギー波が逆転し、巨人の攻撃を弾き返した。
「これが……封印の力……!」
ニコラスはその瞬間、クリスタルに秘められた力を感じ取った。その力が、彼の体内に流れ込む感覚がした。
それは、まるで神殿そのものと繋がったような感覚で、これまでのすべての試練が一気に集約されるような不思議な力を感じた。
そして、クリスタルから放たれた光が巨人を包み込むと、巨人の動きが鈍くなり、目の前に立ち尽くしていた。
「今だ!」
ニコラスは再び一歩前に出ると、剣を構え、巨人の心臓部を目指して突撃した。
その瞬間、巨人の目が赤く輝き、最後の力を振り絞ったように手を振り上げたが、ニコラスはその攻撃をかわし、見事に巨人の胸を一突きで貫いた。
「これで終わりだ……」
ニコラスは息を呑みながらも、その一撃が巨人を倒したことを確認した。
だが、倒れた巨人の体が崩れると、その中から光の粒子が放たれ、まるで神殿全体を包み込むように広がった。
「これで……封印が解けたのか?」
レアナが驚いたように呟いた。
「これで終わったわけではない……」
ニコラスは胸の奥に感じる不安を抑えながら、神殿の奥に広がる光の先を見つめた。何か、大きな秘密が待っていることを、彼は確信していた。
ニコラスが光の渦に身を委ねると、突如として神殿内の空気が一変した。
先ほどまで感じていた不安定な波動が消え去り、代わりに重く、圧倒的な存在感を放つ何かが、神殿の深層から湧き上がってきた。
光の中に何かがひときわ強く輝き、その周囲を取り囲んでいた無数のエーテリウムの粒子が、まるで生き物のようにうごめきながら集まっていった。
「こ……これは……?」
レアナが恐る恐る呟いた。その声には驚きと共に、どこか恐怖の色が滲んでいる。
ニコラスは目を細め、その光を凝視した。だんだんと、その中心に何かが浮かび上がってきた。
光が次第に収束し、石の扉の奥に眠るものの姿が明らかになり始める。それは、異形の存在だった。
「何か……動いてる……?」
エリオットが息を呑んで呟いた。
その言葉が合図となったかのように、光が一気に収束し、突然、足元の石の床が震え始めた。
神殿全体がひときわ大きく揺れ、壁に刻まれた古代の紋章が一瞬、暗く輝いては消える。
その瞬間、空間が歪み、ニコラスたちは何かを感じ取った。まるで神殿そのものが反応し、目の前に現れたものを警告しているかのようだった。
「これは……神殿の守護者ではないか?」
ニコラスが呟くと、エリオットが身を震わせて答えた。
「いや、これは守護者ではない……もっと古い、別の存在だ」
その瞬間、影が扉を越えて現れた。
それは人型ではあったが、形状は明らかに異形だった。
黒い鎧のようなものを身にまとい、背中からは無数の羽根が生えている。
その目は光がなく、まるで時間を超越した存在そのものを感じさせた。彼の目線がニコラスに向けられた瞬間、周囲の空気が一層冷たく感じられ、まるで全ての生き物がその存在に対して静まり返ったかのような錯覚を覚える。
「誰だ、貴様は……?」
ニコラスが声をかけると、その存在はゆっくりと口を開いた。冷たく、深みのある声が響く。
「私は、アレクシオス。かつてこの神殿を守るために封印された者」
その声は、まるで遠い昔から響いているかのように不安定で、時折、震えが交じる。しかし、その言葉には圧倒的な威厳があった。
「アレクシオス……?」
レアナがその名前を口にするが、明らかに心当たりがない様子だ。
「そうだ……私はこの神殿の力を封じるために、何百年もの間、ここに留まっていた」
アレクシオスの言葉には、神殿そのものが語りかけてくるかのような響きがあった。
「だが、封印が解ける時が来た。お前たちは、その時を引き寄せた者たちだ」
その言葉を聞いて、ニコラスの眉がひそめられる。
封印を解いたのは、あの巨人ではなかった。あれはただの守護者だったのだ。
では、今目の前に現れたアレクシオスこそが、この神殿における最も重要な存在。何か巨大な力を秘めているに違いない。
「封印が解ける……だと?」
エリオットが言葉を続けた。
「だが、封印が解ける理由があるのか?この神殿にはまだ他に解くべき封印があるのか?」
アレクシオスは無言でニコラスたちを見つめ、少しの沈黙の後、再び口を開いた。
「この神殿の中には、世界の命運を左右する力が眠っている。その力は、1度解き放たれれば、もはや誰もその暴走を止めることはできない」
その言葉に、ニコラスたちは言葉を失った。彼の言う力というのは、単なる物理的なエネルギーではない。
もっと深い、精神的なものや、存在そのものを操るような、強大な力を指しているのだろう。
「しかし、それを守るために私は封印されていた。そして、私はその力を制御することができる唯一の存在だ」
アレクシオスがゆっくりと前に進み、目の前に立った。
「だが、なぜ今、この封印が解けた……?」
レアナが問いかける。
「お前たちのような者たちが、この神殿に足を踏み入れたからだ」
アレクシオスが冷静に答えた。
「お前たちの中に、この封印を解く力を秘めている者がいる。それが、すべての始まりとなった」
その瞬間、ニコラスは何かを感じた。
そう、何かが彼の内面でざわめき、心の奥底から湧き上がってくるような感覚。自分の中にその力が眠っているのか?
「それは……俺たちの中の誰だ?」
ニコラスが思わず呟くと、アレクシオスは静かに答えた。
「それを確かめるために、もう少しだけ進んでみるといい」
その言葉と共に、アレクシオスはゆっくりと背を向け、神殿の奥へと歩き出した。
「ここに来るのは、2度目だけど……やっぱり不気味だな」
レアナが小声でつぶやく。
「俺たちが封印を一時的に止められたのは奇跡だ。だが、この神殿の秘密を解かない限り、またあの恐怖は戻ってくる」
ニコラスは剣の柄を握りしめ、決意を新たにした。
彼らは入口の扉に手をかけた。冷たい石の感触と共に、古代文字が淡く輝き始める。だがその言葉は誰にも解読できなかった。
「記録がないってことは……この神殿は、何か特別な秘密を隠しているに違いない」
エリオットが慎重に言葉を選んだ。
その時、森の風が一瞬止まり、まるで神殿自体が彼らの来訪を見守っているかのようだった。
ニコラスがゆっくりと扉を押し開けると、そこは想像以上に広大な空間だった。石壁に刻まれた無数の紋章と、ひんやりとした空気が立ち込めている。
だが、どこか異質な空気が漂い、まるで時間が止まっているかのようだった。
「見て、ここに…⋯」
レアナが壁の一角に浮かび上がる不思議な紋章を指差した。
「これ、さっきの古代文字と似てる。でも意味は分からない…⋯」
エリオットは周囲を警戒しながら答えた。
「記録がないからこそ、我々の想像が試される場所だ。気を引き締めていこう」
その瞬間、薄暗い空間の奥から、かすかな光がゆらりと揺れ動いた。
「誰かいるのか?」
ニコラスが声を潜めて問いかける。
返事はなく、ただ静寂が広がるだけだった。
「私たちは何か、見えざるものに試されているのかもしれない…⋯」
レアナがそう言った。
薄暗い神殿の奥深く、3人は慎重に足を進めた。
石の床は冷たく硬く、所々にひび割れが走っている。壁に刻まれた紋章や文字は、古代の文明の痕跡を物語っていたが、その意味を理解できる者はこの世界にほとんどいない。
「この場所には、きっと隠された何かがある…⋯」
エリオットが呟いた。
「私たちが探しているのは、アーサーの起源に繋がる手がかりだ」
レアナが続ける。
ニコラスは剣の柄を握り締めながら、周囲に気を配った。
突然、壁の一部がわずかに震え、ゆっくりと開き始める。そこには、螺旋状の階段が地下深くへと続いていた。
「行くしかない…⋯」
ニコラスが言うと、3人は息を整え、暗い階段を降りていった。
階段を下りきると、そこは巨大な地下洞窟のような空間だった。中央には巨大な結晶が天井から吊り下げられていて、かすかに青白い光を放っていた。
「これが……エーテリウムの源泉のひとつかもしれない…⋯」
レアナがつぶやく。
「こんな場所を知られてはいけない……」
エリオットが言いかけたその時、背後から微かな足音が響いた。
振り返ると、暗闇の中に人影が浮かび上がる。
「待っていたぞ、旅人たちよ」
冷たい声が響いた。
その声の主は、黒いローブを纏った男だった。顔は影に隠れているが、その瞳だけは青白く輝いていた。
「誰だ……?」
ニコラスが警戒を強めた。
「私はセラン連邦の密偵、カイ・ヴァルク。ここで何をしている?」
「封印の調査だ。アーサーの謎を解明するために、この場所を訪れた」
レアナが答えた。
カイはゆっくりと近づき、冷ややかな笑みを浮かべた。
「面白い。君たちの目的は我々の研究と重なるかもしれない。だが、この秘密は決して外に漏れてはならない」
「それなら協力しろ」
エリオットが言い放つ。
「簡単にはいかない」
カイはそう告げると、手をかざし、エーテリウムの結晶から放たれる光を増幅させた。
その瞬間、洞窟の壁が淡く輝き、未知の記号が浮かび上がる。
「この神殿の歴史は、世界の歴史よりも古い。ここに眠る力は、破滅か再生かを選ぶ鍵となる」
3人は息をのんだ。
「お互いの信念がぶつかり合う時、真実が見えるかもしれないな」
カイは静かに言った。
その言葉に、ニコラスの胸は重くなる。
歴史の重み。それらが頭の中を巡り、胸の奥に湧き上がる不安に押し潰されそうだった。
「じゃあ、何をすべき?」
レアナが、少し早口で聞いた。彼女もまた、この場所の持つ異質な雰囲気に警戒している様子だった。
カイは一歩後ろに下がり、薄暗い神殿内に響く声で語り始めた。
「我々の調査では、この神殿が封印の中心であることがわかっている。この場所のエーテリウムは特異な性質を持ち、恐らく世界の命運を握っている。だが、そこに潜む力は不安定だ。封印の力を高めることができれば、世界の安定を取り戻せる。しかし、それが暴走すれば、世界そのものを滅ぼしかねない」
「どうすればその力を制御できる?」
ニコラスが問いかけた。
カイはしばらく黙ってから、深く息を吸い込んだ。
「我々の調査によると、この場所には1つの鍵が必要だ。その鍵を手に入れれば、封印の力を完全に操ることができるだろう。しかし、その鍵はここから遠く離れた場所、雪に覆われた山脈の奥深くに眠っている」
レアナはその話を聞いて、思わず眉をひそめた。
「雪山か……」
彼女は低く呟く。
「そんな場所で何を探せばいいんだ?」
カイの顔に冷徹な表情が浮かぶ。
「その鍵は、封印を強化するための遺物だ。しかし、その場所はただの山脈ではない。かつて、古代の神々が閉じ込めた禁忌の力が封じられている場所でもある。それを探し出し、取り戻さなければならない」
「禁忌の力…⋯?」
エリオットが興味を示し、慎重に言った。
「それは、いったい何なんだ?」
カイは目を細め、少し考えるようにしてから答える。
「それについて詳しい情報は我々にも少ない。しかし、古代の記録によると、その力は神々が使ったエーテリウムそのものであり、時を超えた神殿の力の源だと言われている。誰かがその力を使えば、世界を創り変えることができるかもしれないが、逆に使い方を誤れば、無限の破壊を引き起こすだろう」
その話を聞き、ニコラスは目を見開いた。
「もしそれが手に入れば……」
「世界を変えられるだろう、ということだ」
とカイが続けた。
「しかし、私はその力が暴走することを恐れている。だからこそ、我々はその力を手に入れ、それを封印するために動いている」
レアナはしばらく黙って考え込んでから、慎重に口を開いた。
「でも、その鍵が見つかるまで、アーサーの暴走をどうするつもり?」
カイはその質問に答えることなく、少しだけ目を閉じた。
「私たちには、アーサーに立ち向かうための力も必要だ。だが、まずはこの神殿で進めるべき作業がある。君たちには、少しの間ここに留まってもらう必要がある」
「留まる?」
エリオットが問いかける。
「はい。ここに来る途中で気づかなかっただろうが、この神殿には特殊な封印が施されている。封印を解除するためには、いくつかの条件をクリアしなければならない。それに必要なものを探し出し、私はその解除の手助けをする」
「……条件?」
ニコラスがその言葉に違和感を覚えながら尋ねた。
カイは冷静に答えた。
「そうだ。この神殿にはいくつかの遺物が隠されている。それらを見つけ出し、封印の解除に必要な力を集めなければならない。その間に、君たちが知っていることを教えてほしい。アーサーの暴走に関して、何か手がかりがあれば、私たちもその力を有効に活用できるかもしれない」
ニコラスはその言葉に思案しながら答える。
「わかった。俺たちの調査でも、アーサーがエーテリウムの力に取り憑かれていることはわかっている。それが彼を支配し、暴走させている原因だと思う。でも、それだけではどうにもならない。あの男の過去と、何が彼をこうさせたのかを知ることが、俺たちにできる最初のステップだ」
「過去…⋯か」
カイは何かを考えるように呟き、その後、ゆっくりと頭を下げた。
「では、君たちの調査が進むのを待っている。しかし、ここにいる限り、この神殿の中で起こることには注意を払う必要がある。私たちの目標は、アーサーの暴走を防ぐことだが、それだけでは済まない。神殿に眠る力が目覚めれば、それがすべてを飲み込んでしまうだろう」
ニコラス、レアナ、エリオットは互いに顔を見合わせ、決意を新たにした。
「じゃあ、動き出す時だな」
ニコラスが口を開いた。
「俺たちは、何としてもアーサーを止める。そして、この力の封印を解き、真実を掴むんだ」
その言葉に、カイは静かに頷いた。
「その通りだ。だが、その道のりは決して楽ではない。覚悟を決めて、共に進むべきだ」
3人はその決意を胸に、再び神殿の奥へと足を踏み入れるのであった。
神殿の奥へ進んでいくにつれて、空気はますます冷たく、重くなった。
足元の石床は冷たく硬く、壁に刻まれた古代の紋章は薄暗い光を放ちながら、どこかに力強いエネルギーが満ちていることを感じさせた。
ニコラスは剣を手に、注意深く周囲を見渡しながら歩みを進める。
「何だか、この先に大きな何かが待っている気がする……」
レアナが低い声で呟いた。彼女の目にも、神殿の深層から伝わる不気味な気配が感じられるようだった。
「気を引き締めていこう。何かが起こるのは確かだ」
ニコラスが言うと、エリオットも頷き、足を速めた。
それからしばらく進むと、神殿の中でも特に深い場所に辿り着いた。
ここでは、壁の石が滑らかで、一部はまるで人の手で磨かれたように美しく整えられていた。
何か異常なほどの整然とした空間が広がっており、どこか不安を覚えるほどだった。
進むほどに、時間が止まったかのような感覚に包まれる。
「ここが……何かの中心だろうか?」
エリオットが辺りを見渡しながら言った。
「可能性は高い。気をつけろ、何か仕掛けがあるかもしれない」
ニコラスが慎重に答える。彼の目は鋭く、周囲の細かな変化に注意を払っていた。
その時、突然、前方に大きな石扉が現れた。
長い間閉ざされていたようで、表面には苔と土がこびりついている。
しかし、扉の中心に浮かび上がる奇妙な光に気づいたニコラスは、一瞬足を止めた。
「見ろ、あの光……何かの印か?」
レアナが呟いた。その光は、ゆっくりと動くように見えた。まるで扉そのものが生命を持っているかのような不思議な感覚を覚える。
ニコラスは扉に近づき、手をかけた。冷たい石の感触が伝わり、彼の指先がわずかに震える。
しかし、扉は硬く閉ざされており、無理に開けようとすると、その光がさらに強くなった。
「何かをしないと開かないようだな」
ニコラスは低く呟き、周囲を再び見回した。
すると、壁の一部がわずかに動いたように見えた。その壁に触れることで、何かの仕掛けが解けるのかもしれないと直感的に思った。
「壁……何かのパターンが刻まれている」
エリオットが壁の表面に触れ、じっくりとその模様を確認した。
古代の文字や複雑な紋章が無数に彫り込まれており、どれも解読は不可能だが、明らかにそれぞれが意味を持っていることは感じ取れる。
「この壁を調べてみる必要がありそうだ」
レアナが慎重に言うと、彼女も壁に手を当ててみた。すると、壁が微かに震え、低い音が響いた。
「これは……?」
ニコラスが警戒を強めたその瞬間、壁の一部がゆっくりと開き、内部に隠されていた小さな部屋が現れた。
部屋の中には、一本の古びた杖と、金属製の箱が置かれていた。
「これが……必要なものか?」
ニコラスが箱に近づき、手をかけた。その瞬間、箱から強烈な光が溢れ出し、部屋全体を照らした。
「うっ……!」
一瞬、彼の視界が白くなり、耳鳴りのような音が響いた。しかし、光はすぐに収まり、箱の中には何かが浮かんでいるのが見えた。それは、まるでクリスタルのような透明な石だった。
「これ……何だ?」
エリオットが一歩前に出て、その石を覗き込んだ。石は手のひらサイズで、どこか神秘的な輝きを放っている。それが何かの鍵であることは間違いないだろう。
「これが、封印を解くために必要なものだろうか?」
レアナが小声で呟いた。
「確かに、これが試練の1つだったのかもしれないな」
ニコラスがその石を手に取り、慎重に検討した。
だが、彼の手に触れた瞬間、石がひんやりと冷たく感じ、何か不安定な力を放っているような気がした。
その時、突然、遠くから低い轟音が響いた。地面がわずかに揺れ、壁がひび割れる音が聞こえてきた。
「何だ、今の音は?」
エリオットが声を上げ、周囲を警戒しながら耳を澄ました。
「わからない……」
ニコラスがその場から身を引き、周囲を見回すと、神殿の奥から重い足音が近づいてくるのが聞こえた。
何か巨大な存在が近づいているような感覚が、すべての神経に走った。
「急いで戻るか?」
レアナが尋ねたが、ニコラスは一瞬考え込んだ。
「今さら戻れない。何かが進行しているんだ。とにかく、進もう。これを持っている限り、封印の力を操れるかもしれない」
そう言って、ニコラスは石をしっかりと握りしめ、再び奥へ進む決意を固めた。
その先に待ち受けるのは、さらに深い謎と、恐るべき試練なのだろう。
しかし、それを乗り越えなければ、この神殿の力を解放し、アーサーの暴走を止めることはできないと確信していた。
ニコラスは足を速め、レアナとエリオットを引き連れて、神殿の奥へ進んだ。
壁が揺れる音、ひび割れる音がますます強くなり、まるで神殿そのものが目覚めようとしているかのような感覚を覚えた。
「急ごう!」
ニコラスが声を上げると、レアナとエリオットは無言で頷き、さらに歩みを進めた。石の床を踏みしめるたびに、微かな振動が全身に伝わり、胸が高鳴る。
そして、ついにその巨大な存在の正体が明らかになった。
前方に、ひときわ大きな扉が見えた。それは今まで見たどんな扉よりも重厚で、圧倒的な存在感を放っている。
扉の上部には、古代の文字が彫り込まれており、その下には恐ろしいほど精緻な紋章が浮かび上がっていた。
まるでそれが、神殿の中で最も重要な場所であることを示すかのようだった。
「これが……」
レアナが息を呑んでその扉を見つめた。
「この先に、何があるんだろう…⋯?」
ニコラスは無言でその扉に近づき、手をかけた。
その瞬間、突如として重々しい音が響き、扉がゆっくりと開き始めた。
隙間から漏れ出す光が、まるでそれ自体が生き物のように動き、神殿の空気を変えた。
扉の向こうには、広大な空間が広がっていた。
その中心に、巨人のような存在が立っていた。
それは人間の形をしているが、圧倒的な大きさと威圧感で、まるで神殿の守護者であるかのように見えた。
金属のように硬い外皮が全身を覆い、頭部には数本の角が突き出ている。目は深い黒色で、すべてを見透かすような冷徹な視線を向けてきた。
「な、なんだあれ……?」
エリオットが震える声で言った。
「それは……」
ニコラスがその巨人を見つめ、冷静に答える。
「おそらく、封印された神殿の守護者だろう。封印を解こうとする者を試すための存在だ」
その言葉を聞いた瞬間、巨人が動き出した。
その動きは鈍重に見えるが、どこか神秘的な力を感じさせる。両手を天高く掲げると、周囲の空気が一変し、地面が震え始めた。
「やはり……来たか」
ニコラスは剣を抜き、構えた。レアナも弓を手に取る。
「私たちを試すつもりなら、受けて立とう!」
エリオットは槍を握りしめ、その身を低く構えた。
巨人はゆっくりと両手を下ろし、手のひらを大きく広げる。その動きに合わせて、周囲の空間が歪み、恐ろしい力が集まり始めた。
「気をつけろ!」
ニコラスはその一瞬を見逃さず、すぐに身を引いた。
次の瞬間、巨人の手のひらから、巨大なエネルギー波が放たれた。
それは目にも留まらぬ速さで、ニコラスたちを襲う。エリオットが瞬時に槍を振るうと、そのエネルギー波は槍の先端にぶつかり、爆発的な衝撃が広がった。
だが、エリオットはその衝撃を受け流すことができず、足元をすくわれ、地面に倒れ込んだ。
「エリオット!」
レアナがすぐに駆け寄ろうとするが、その前に再び巨人の手が動き、もう1度エネルギー波が放たれる。
「逃げろ!」
ニコラスが叫び、レアナを引っ張ってその場を離れた。しかし、エネルギー波はまるで追いかけるように、2人に迫ってきた。
その時、ニコラスはふと、手に握っていたあのクリスタルを思い出した。あの石が封印の鍵なら、これを使えば何かできるかもしれないという直感が働いた。
「レアナ、エリオットを頼む!俺はあの石を使ってみる!」
ニコラスはその言葉を残し、再び巨人の放ったエネルギー波を受けながら、クリスタルを掲げた。
すると、クリスタルが手の中で微かに光を放ち、次第にその光が強くなった。光は周囲の空間を飲み込み、まるで巨人が放つ力を反射するかのように、強力なエネルギー波が逆転し、巨人の攻撃を弾き返した。
「これが……封印の力……!」
ニコラスはその瞬間、クリスタルに秘められた力を感じ取った。その力が、彼の体内に流れ込む感覚がした。
それは、まるで神殿そのものと繋がったような感覚で、これまでのすべての試練が一気に集約されるような不思議な力を感じた。
そして、クリスタルから放たれた光が巨人を包み込むと、巨人の動きが鈍くなり、目の前に立ち尽くしていた。
「今だ!」
ニコラスは再び一歩前に出ると、剣を構え、巨人の心臓部を目指して突撃した。
その瞬間、巨人の目が赤く輝き、最後の力を振り絞ったように手を振り上げたが、ニコラスはその攻撃をかわし、見事に巨人の胸を一突きで貫いた。
「これで終わりだ……」
ニコラスは息を呑みながらも、その一撃が巨人を倒したことを確認した。
だが、倒れた巨人の体が崩れると、その中から光の粒子が放たれ、まるで神殿全体を包み込むように広がった。
「これで……封印が解けたのか?」
レアナが驚いたように呟いた。
「これで終わったわけではない……」
ニコラスは胸の奥に感じる不安を抑えながら、神殿の奥に広がる光の先を見つめた。何か、大きな秘密が待っていることを、彼は確信していた。
ニコラスが光の渦に身を委ねると、突如として神殿内の空気が一変した。
先ほどまで感じていた不安定な波動が消え去り、代わりに重く、圧倒的な存在感を放つ何かが、神殿の深層から湧き上がってきた。
光の中に何かがひときわ強く輝き、その周囲を取り囲んでいた無数のエーテリウムの粒子が、まるで生き物のようにうごめきながら集まっていった。
「こ……これは……?」
レアナが恐る恐る呟いた。その声には驚きと共に、どこか恐怖の色が滲んでいる。
ニコラスは目を細め、その光を凝視した。だんだんと、その中心に何かが浮かび上がってきた。
光が次第に収束し、石の扉の奥に眠るものの姿が明らかになり始める。それは、異形の存在だった。
「何か……動いてる……?」
エリオットが息を呑んで呟いた。
その言葉が合図となったかのように、光が一気に収束し、突然、足元の石の床が震え始めた。
神殿全体がひときわ大きく揺れ、壁に刻まれた古代の紋章が一瞬、暗く輝いては消える。
その瞬間、空間が歪み、ニコラスたちは何かを感じ取った。まるで神殿そのものが反応し、目の前に現れたものを警告しているかのようだった。
「これは……神殿の守護者ではないか?」
ニコラスが呟くと、エリオットが身を震わせて答えた。
「いや、これは守護者ではない……もっと古い、別の存在だ」
その瞬間、影が扉を越えて現れた。
それは人型ではあったが、形状は明らかに異形だった。
黒い鎧のようなものを身にまとい、背中からは無数の羽根が生えている。
その目は光がなく、まるで時間を超越した存在そのものを感じさせた。彼の目線がニコラスに向けられた瞬間、周囲の空気が一層冷たく感じられ、まるで全ての生き物がその存在に対して静まり返ったかのような錯覚を覚える。
「誰だ、貴様は……?」
ニコラスが声をかけると、その存在はゆっくりと口を開いた。冷たく、深みのある声が響く。
「私は、アレクシオス。かつてこの神殿を守るために封印された者」
その声は、まるで遠い昔から響いているかのように不安定で、時折、震えが交じる。しかし、その言葉には圧倒的な威厳があった。
「アレクシオス……?」
レアナがその名前を口にするが、明らかに心当たりがない様子だ。
「そうだ……私はこの神殿の力を封じるために、何百年もの間、ここに留まっていた」
アレクシオスの言葉には、神殿そのものが語りかけてくるかのような響きがあった。
「だが、封印が解ける時が来た。お前たちは、その時を引き寄せた者たちだ」
その言葉を聞いて、ニコラスの眉がひそめられる。
封印を解いたのは、あの巨人ではなかった。あれはただの守護者だったのだ。
では、今目の前に現れたアレクシオスこそが、この神殿における最も重要な存在。何か巨大な力を秘めているに違いない。
「封印が解ける……だと?」
エリオットが言葉を続けた。
「だが、封印が解ける理由があるのか?この神殿にはまだ他に解くべき封印があるのか?」
アレクシオスは無言でニコラスたちを見つめ、少しの沈黙の後、再び口を開いた。
「この神殿の中には、世界の命運を左右する力が眠っている。その力は、1度解き放たれれば、もはや誰もその暴走を止めることはできない」
その言葉に、ニコラスたちは言葉を失った。彼の言う力というのは、単なる物理的なエネルギーではない。
もっと深い、精神的なものや、存在そのものを操るような、強大な力を指しているのだろう。
「しかし、それを守るために私は封印されていた。そして、私はその力を制御することができる唯一の存在だ」
アレクシオスがゆっくりと前に進み、目の前に立った。
「だが、なぜ今、この封印が解けた……?」
レアナが問いかける。
「お前たちのような者たちが、この神殿に足を踏み入れたからだ」
アレクシオスが冷静に答えた。
「お前たちの中に、この封印を解く力を秘めている者がいる。それが、すべての始まりとなった」
その瞬間、ニコラスは何かを感じた。
そう、何かが彼の内面でざわめき、心の奥底から湧き上がってくるような感覚。自分の中にその力が眠っているのか?
「それは……俺たちの中の誰だ?」
ニコラスが思わず呟くと、アレクシオスは静かに答えた。
「それを確かめるために、もう少しだけ進んでみるといい」
その言葉と共に、アレクシオスはゆっくりと背を向け、神殿の奥へと歩き出した。



