夜の帳が下りた山間の酒場。
ジョニーは椅子に足をかけ、粗末な地図をテーブルに広げた。
その向かいには、フードを深くかぶったレオンが、無言で煙草をくゆらせている。
「……1つのエーテリウムの保管庫はここだ。ヴェルダの東側、旧王城の地下。今はほとんど使われてないが、巡回兵はまだいるらしい」
「共和国の兵ってやつか。腕は悪くないが、動きは雑だ」
レオンがぼそりと呟いた。
「……で、そこに潜って、何を盗む?」
「蒼紋の核石」
「核石だと?何だそれは」
ジョニーは低く答えた。
「簡単に言えば、エーテリウムが凝縮された青い石さ。見た目はただの宝石みたいだけど、実はそれだけじゃない。城の魔力の源であり、戦争の記録や秘密が詰まった過去のUSBメモリみたいなものなんだ。」
「本気か、ジョニー。下手すりゃ軍ごと動くぞ、あれは国の心臓みたいなもんだ」
「だから狙うんだ。しかも今なら、地下の封印庫に移されたばかり。護衛も配置も手薄になってる」
「それを、どこから聞いた」
「……知り合いだよ。セラン連邦の技師崩れ。金に目がない奴でな」
レオンは黙って煙草を押し潰すと、重い息を吐いた。
「で、取り出してどうする。売るのか?連邦に横流しでもするのか?」
「売るかはお前次第だが……俺は、確かめたいんだよ」
ジョニーの目がわずかに鋭くなる。
「エーテリウムってのが、本当にただの動力なのか、それとも誰かの記憶を喰ってるものなのかを、な」
レオンはその言葉に、わずかに表情を動かした。
その顔にはかすかに、知っている者の影が浮かぶ。
「……あんた、昔、どこかで見た顔と似てるな」
「そうかもな。俺は、あの戦争で家も国も捨てた男さ」
数秒の沈黙ののち、レオンは立ち上がった。
「1つ、条件がある。誰にも見つかるな。そして、殺すな」
「殺しはしねえよ。……できれば、な」
2人の視線が交差する。
その夜、雨が止み、風が冷たくなった。
それは、運命が動く前触れだった。
目的地に着く。城の石壁は冷たく、夜の闇が重く覆いかぶさっていた。
ジョニーは慎重に足音を殺し、隣にいるレオンと目を合わせる。
「気をつけろ。ここはカドリア王国、警備は厳重だ」
レオンは軽くうなずき、ポケットから小型のエーテリウム探知機を取り出す。光が暗闇をかすかに照らし、奥の部屋へ導く。
数分後、2人はついに王国の聖なるエーテリウムが収められた秘密の部屋の扉の前に立った。
「鍵は俺に任せろ」
ジョニーは細いピッキング工具を取り出し、息を潜めて作業を始めた。
数秒後、カチリと小さな音が響き、扉がゆっくりと開いた。中は薄暗く、神聖な光を放つエーテリウムの結晶がただ1つ、そこにあった。
「これだ。絶対に逃げられるうちに持ち出す」
レオンが言い、結晶を慎重に取り出す。
だが、その瞬間、遠くから警報が鳴り響いた。
「やばい!バレたか!」
ジョニーが叫び、二人は闇の中へと駆け出した。
城内の兵士たちの足音が迫る。石の階段を駆け下り、狭い通路を抜けて壁に沿って逃げる。
「こっちだ!」
レオンが指差した先に見えるのは、城壁の下の小さな抜け穴。
2人は躊躇わず、そこから外の冷たい空気に飛び出した。
息を切らしながらも、盗んだエーテリウムを確かに握りしめ、彼らは闇の森へと消えていった。
「これでしばらくは食えるな」
ジョニーが笑った。
「だが、これでまた火種が増えた。4大勢力の均衡は、もう崩れ始めている」
レオンは空を見上げ、暗い予感を抱いていた。
レオンは静かに息を吐き、夜空に浮かぶ星を見つめていた。
「これで、しばらくは共和国も安泰だろうな……でも、何かが変わり始めている気がする」
彼の胸に芽生えたのは、ただの強盗の計画以上の不安。世界の均衡が少しずつ崩れ始めている兆しだった。
ジョニーが背後から声をかける。
「行くぞ。計画通りに動こう。」
二人は影のように城を抜け出し、新たな運命の波に身を投じていった。
城の冷たい石壁を背に、レオンは蒼紋の核石を懐に押し込んだ。心臓の鼓動が耳を塞ぐほど響く。
「急げ、ジョニー。奴らが気づく前にここを出るぞ」
ジョニーは暗い廊下の先を睨み、息を殺す。ふたりの影が石畳に揺れる。
だが、曲がり角を曲がった瞬間、鋭い声が響いた。
「そこまでだ!」
黒い軍服を纏った若い男が、鋭い目で2人を睨みつけていた。
「誰だ?!」
レオンが叫ぶ。
「ヴェルダ共和国の将校、カイル・レン。お前たちの動きをずっと監視していた」
レオンは一瞬で状況を飲み込み、冷静に構えた。
「どうやら計画はバレていたか」
カイルは前に一歩踏み出す。
「返せ。あの核石はこの国の宝だ」
ジョニーが素早く身を低くし、脇の短剣を抜く。
「簡単にはいかねえな」
レオンも抜刀し、刀身が冷たい月光を反射した。
「ならば……」
カイルも剣を抜き、鋭く構える。3つの刃が交錯する前の静寂が、一瞬の刹那に爆発した。
ジョニーが疾風のように飛びかかり、鋭い短剣を振り抜く。刃は石壁をかすめ、火花が散った。
カイルは素早く身をかわし、反撃の剣を突き出す。刃はレオンの肩をかすめ、鋭い痛みが走ったが、彼は怯まなかった。
刀と剣がぶつかり合い、金属がこすれる音が廊下に響く。
「簡単にはいかねぇ!」
ジョニーが叫び、二刀流の動きを見せる。
カイルは冷静にその動きを読み取り、一瞬の隙をついて強烈な突きでレオンの防御を崩そうとした。
レオンは反射的に身体をひねり、刃を受け流す。だが、その勢いで足元の小石を蹴り飛ばし、ジョニーの動きを制止させる。
「ジョニー、こいつを!」
レオンの声にジョニーが応え、短剣が真っ直ぐカイルの胸元を狙う。
カイルは鋭く身をかわし、間合いを取り直した。呼吸を整え、静かながらも圧倒的な力を秘めた声で告げる。
「争いは無意味だ。だが、任務は果たさねばならぬ……許せ」
その言葉とともに、再び3人の動きが加速する。刃のぶつかり合いは激しさを増し、汗と呼吸が廊下に充満した。
廊下の奥から足音が響き、他の兵が迫る。
「ここは引くぞ、ジョニー!」
2人は一瞬の隙をついて後退。カイルは追わず、静かに見送った。
「……また会うことになる」
その言葉だけを残し、夜の闇に消えていった。
レオンは空を見上げ、胸の中にざわめく予感を感じていた。
「この戦いは、まだ終わっていない……」
その言葉が胸に重く響く中、レアナの目の前に、ふいに古びた巻物が浮かび上がった。蒼色の光が文字を浮かび上がらせ、まるで語りかけてくるかのようだった。
そこには、かつてヴェルダ共和国が誇った、かつての最高指揮官の記録が綴られていた。
「——千の刃を斬り裂き、紅蓮の焔を纏いし男⋯…」
五百年前の戦い、アーサーはわずか1人、数十万の敵兵を前に立ち塞がった。
その姿はまるで幻影のごとく、音速を超える動きで敵の群れに斬り込んだ。
刃は一振りごとに途轍もない力を繰り出し、黒い炎が巻き上げる。
誰も彼の前に立ち塞がることはできず、あらゆる兵がただ恐怖に震えた。
だが、戦場の静寂を破ったのはヴェルダ共和国の最高司令官の号令だった。
「一斉に飛びかかれ!」
数万の兵士が一斉にアーサーに襲い掛かる。
その瞬間、アーサーの刀は一段と激しく黒く燃え盛り、空気が震えた。
そして、後ろから横へ大きく振り抜いたその一撃は、まるで地形ごと切り裂くかのような圧倒的な力を放った。
視界は真っ黒になり、地面は爆音とともに裂け、戦場全体が吹き飛んだ。
その記録を読み進めるレアナの心に、戦いの凄まじさとアーサーの孤独がじわじわと伝わってきた。
「彼の怒りも、悲しみも……ただの破壊ではなかった。あれは……」
風が頷くように谷を吹き抜け、彼女の決意を強くした。
「……まだ、知らなければならない真実がある」
そう呟いてレアナはもっと奥へ進んだ。
埃をかぶった古文書の束の中に、封印の記録が隠されていることを、彼女は確信していた。
ジョニーは椅子に足をかけ、粗末な地図をテーブルに広げた。
その向かいには、フードを深くかぶったレオンが、無言で煙草をくゆらせている。
「……1つのエーテリウムの保管庫はここだ。ヴェルダの東側、旧王城の地下。今はほとんど使われてないが、巡回兵はまだいるらしい」
「共和国の兵ってやつか。腕は悪くないが、動きは雑だ」
レオンがぼそりと呟いた。
「……で、そこに潜って、何を盗む?」
「蒼紋の核石」
「核石だと?何だそれは」
ジョニーは低く答えた。
「簡単に言えば、エーテリウムが凝縮された青い石さ。見た目はただの宝石みたいだけど、実はそれだけじゃない。城の魔力の源であり、戦争の記録や秘密が詰まった過去のUSBメモリみたいなものなんだ。」
「本気か、ジョニー。下手すりゃ軍ごと動くぞ、あれは国の心臓みたいなもんだ」
「だから狙うんだ。しかも今なら、地下の封印庫に移されたばかり。護衛も配置も手薄になってる」
「それを、どこから聞いた」
「……知り合いだよ。セラン連邦の技師崩れ。金に目がない奴でな」
レオンは黙って煙草を押し潰すと、重い息を吐いた。
「で、取り出してどうする。売るのか?連邦に横流しでもするのか?」
「売るかはお前次第だが……俺は、確かめたいんだよ」
ジョニーの目がわずかに鋭くなる。
「エーテリウムってのが、本当にただの動力なのか、それとも誰かの記憶を喰ってるものなのかを、な」
レオンはその言葉に、わずかに表情を動かした。
その顔にはかすかに、知っている者の影が浮かぶ。
「……あんた、昔、どこかで見た顔と似てるな」
「そうかもな。俺は、あの戦争で家も国も捨てた男さ」
数秒の沈黙ののち、レオンは立ち上がった。
「1つ、条件がある。誰にも見つかるな。そして、殺すな」
「殺しはしねえよ。……できれば、な」
2人の視線が交差する。
その夜、雨が止み、風が冷たくなった。
それは、運命が動く前触れだった。
目的地に着く。城の石壁は冷たく、夜の闇が重く覆いかぶさっていた。
ジョニーは慎重に足音を殺し、隣にいるレオンと目を合わせる。
「気をつけろ。ここはカドリア王国、警備は厳重だ」
レオンは軽くうなずき、ポケットから小型のエーテリウム探知機を取り出す。光が暗闇をかすかに照らし、奥の部屋へ導く。
数分後、2人はついに王国の聖なるエーテリウムが収められた秘密の部屋の扉の前に立った。
「鍵は俺に任せろ」
ジョニーは細いピッキング工具を取り出し、息を潜めて作業を始めた。
数秒後、カチリと小さな音が響き、扉がゆっくりと開いた。中は薄暗く、神聖な光を放つエーテリウムの結晶がただ1つ、そこにあった。
「これだ。絶対に逃げられるうちに持ち出す」
レオンが言い、結晶を慎重に取り出す。
だが、その瞬間、遠くから警報が鳴り響いた。
「やばい!バレたか!」
ジョニーが叫び、二人は闇の中へと駆け出した。
城内の兵士たちの足音が迫る。石の階段を駆け下り、狭い通路を抜けて壁に沿って逃げる。
「こっちだ!」
レオンが指差した先に見えるのは、城壁の下の小さな抜け穴。
2人は躊躇わず、そこから外の冷たい空気に飛び出した。
息を切らしながらも、盗んだエーテリウムを確かに握りしめ、彼らは闇の森へと消えていった。
「これでしばらくは食えるな」
ジョニーが笑った。
「だが、これでまた火種が増えた。4大勢力の均衡は、もう崩れ始めている」
レオンは空を見上げ、暗い予感を抱いていた。
レオンは静かに息を吐き、夜空に浮かぶ星を見つめていた。
「これで、しばらくは共和国も安泰だろうな……でも、何かが変わり始めている気がする」
彼の胸に芽生えたのは、ただの強盗の計画以上の不安。世界の均衡が少しずつ崩れ始めている兆しだった。
ジョニーが背後から声をかける。
「行くぞ。計画通りに動こう。」
二人は影のように城を抜け出し、新たな運命の波に身を投じていった。
城の冷たい石壁を背に、レオンは蒼紋の核石を懐に押し込んだ。心臓の鼓動が耳を塞ぐほど響く。
「急げ、ジョニー。奴らが気づく前にここを出るぞ」
ジョニーは暗い廊下の先を睨み、息を殺す。ふたりの影が石畳に揺れる。
だが、曲がり角を曲がった瞬間、鋭い声が響いた。
「そこまでだ!」
黒い軍服を纏った若い男が、鋭い目で2人を睨みつけていた。
「誰だ?!」
レオンが叫ぶ。
「ヴェルダ共和国の将校、カイル・レン。お前たちの動きをずっと監視していた」
レオンは一瞬で状況を飲み込み、冷静に構えた。
「どうやら計画はバレていたか」
カイルは前に一歩踏み出す。
「返せ。あの核石はこの国の宝だ」
ジョニーが素早く身を低くし、脇の短剣を抜く。
「簡単にはいかねえな」
レオンも抜刀し、刀身が冷たい月光を反射した。
「ならば……」
カイルも剣を抜き、鋭く構える。3つの刃が交錯する前の静寂が、一瞬の刹那に爆発した。
ジョニーが疾風のように飛びかかり、鋭い短剣を振り抜く。刃は石壁をかすめ、火花が散った。
カイルは素早く身をかわし、反撃の剣を突き出す。刃はレオンの肩をかすめ、鋭い痛みが走ったが、彼は怯まなかった。
刀と剣がぶつかり合い、金属がこすれる音が廊下に響く。
「簡単にはいかねぇ!」
ジョニーが叫び、二刀流の動きを見せる。
カイルは冷静にその動きを読み取り、一瞬の隙をついて強烈な突きでレオンの防御を崩そうとした。
レオンは反射的に身体をひねり、刃を受け流す。だが、その勢いで足元の小石を蹴り飛ばし、ジョニーの動きを制止させる。
「ジョニー、こいつを!」
レオンの声にジョニーが応え、短剣が真っ直ぐカイルの胸元を狙う。
カイルは鋭く身をかわし、間合いを取り直した。呼吸を整え、静かながらも圧倒的な力を秘めた声で告げる。
「争いは無意味だ。だが、任務は果たさねばならぬ……許せ」
その言葉とともに、再び3人の動きが加速する。刃のぶつかり合いは激しさを増し、汗と呼吸が廊下に充満した。
廊下の奥から足音が響き、他の兵が迫る。
「ここは引くぞ、ジョニー!」
2人は一瞬の隙をついて後退。カイルは追わず、静かに見送った。
「……また会うことになる」
その言葉だけを残し、夜の闇に消えていった。
レオンは空を見上げ、胸の中にざわめく予感を感じていた。
「この戦いは、まだ終わっていない……」
その言葉が胸に重く響く中、レアナの目の前に、ふいに古びた巻物が浮かび上がった。蒼色の光が文字を浮かび上がらせ、まるで語りかけてくるかのようだった。
そこには、かつてヴェルダ共和国が誇った、かつての最高指揮官の記録が綴られていた。
「——千の刃を斬り裂き、紅蓮の焔を纏いし男⋯…」
五百年前の戦い、アーサーはわずか1人、数十万の敵兵を前に立ち塞がった。
その姿はまるで幻影のごとく、音速を超える動きで敵の群れに斬り込んだ。
刃は一振りごとに途轍もない力を繰り出し、黒い炎が巻き上げる。
誰も彼の前に立ち塞がることはできず、あらゆる兵がただ恐怖に震えた。
だが、戦場の静寂を破ったのはヴェルダ共和国の最高司令官の号令だった。
「一斉に飛びかかれ!」
数万の兵士が一斉にアーサーに襲い掛かる。
その瞬間、アーサーの刀は一段と激しく黒く燃え盛り、空気が震えた。
そして、後ろから横へ大きく振り抜いたその一撃は、まるで地形ごと切り裂くかのような圧倒的な力を放った。
視界は真っ黒になり、地面は爆音とともに裂け、戦場全体が吹き飛んだ。
その記録を読み進めるレアナの心に、戦いの凄まじさとアーサーの孤独がじわじわと伝わってきた。
「彼の怒りも、悲しみも……ただの破壊ではなかった。あれは……」
風が頷くように谷を吹き抜け、彼女の決意を強くした。
「……まだ、知らなければならない真実がある」
そう呟いてレアナはもっと奥へ進んだ。
埃をかぶった古文書の束の中に、封印の記録が隠されていることを、彼女は確信していた。



