着替えの用意を整えて脱衣所に入り、洗面台の前に立ち結びっぱなしだった髪を解いた。引っ張られていた髪の緊張が緩んで、同時に私の気も抜ける。ズルズルとその場に座り込んだ。
桃の花の髪紐は砂埃を被って花びらが少しくすんでいる。お風呂から上がったらちゃんとお手入れしなければ。
身体もあちこち軋んでいるのでしっかりマッサージしないと。それにしても久しぶりのお布団だから、恵衣くんの言う通り明日の夕方までは起きないだろうな。
明日のご飯当番誰だっけ、そういえば今日って何曜日だろ?
そんなことを考えながら緋袴の紐に手をかけたその時だった。
テレビをザッピングするかのように次々と脳裏に色んな映像が浮かんでは消えて、繁華街の雑踏のように色んな音が同時に聞こえ出す。
直ぐに先見の明が発動したのだとわかって、床に手を付き静かに目を閉じた。
抗わず、身を任せる。波長を合わせるように慎重に。
やがて意識と意識の中の身体が繋がり始める感覚がして、切り替わる映像が鮮明になっていく。
これは────ここだ。薫先生の家だ。廊下も天井も壁も家中が燃えている。青い炎が迫ってくる。これは怪し火だ。
『皆逃げろ!』恵衣くんが叫んで、皆が廊下を駆け抜けている。身体中が熱い。呼吸する度に喉が焼け付く。
『そう逃げるでない。話をしようじゃないか』
『クソガキども、筆を盗んだのはあんたらやろ!』
振り返る。炎の先に人影が二つ。後頭部がやけに伸びた老人と、獣耳を生やした若い女。



