久しぶりに帰ってきた現世は、すっかり春の装いだった。月夜に照らされて淡く輝く桜並木を、電車の車窓からぼんやりと眺めた。
私の肩にはヨダレを垂らさん勢いで眠りこける慶賀くんが寄りかかっている。嘉正くんも腕を組んで目を閉じており、来光くんも激しく舟を漕いでいた。
あっという間だったけれど、本当に色々あったんだ。疲れるのも無理はない。
私もさっきからあくびが止まらず、何度も滲んだ涙を拭っている。
「ったく……気が抜けすぎなんだよ」
恵衣くんが、いよいよ耐えきれなくなってもたれかかってきた来光くんを見下ろし顔を顰めた。
昔の恵衣くんなら問答無用で押し返していたはずなので、随分と性格が軟化したものだ。
筆の入ったリュックを来光くんから取り上げて胸の前に抱え直す。不器用な優しさが微笑ましい。
「あとちょっとで着くね。本当に二時間後にはお風呂に入って寝れるなんて」
モニターに映った最寄り駅の名前を確認しながらそう零すと、恵衣くんはフッと笑った。
「俺は嘘は言わない」
そうだ。恵衣くんは嘘をつかない。
そんな真っ直ぐな言葉にどれほど勇気づけられ、救われてきたことか。
ふう、と疲れたように息を吐いた恵衣くんはどこか気まずそうに視線を泳がせたあとチラリと私を見た。
「お前も疲れてるなら……肩、貸してやらんこともない」
一瞬自分の耳を疑って、「え?」と聞き返した。するとトマトのように顔を真っ赤にした恵衣くんが早口で捲し立てる。



