これは故人の魂が神の世界へ帰ったことを報告し、御霊の安寧を祈る帰幽報告の祝詞だ。
どうか安らかに、そしてその命を賭してまで神器を守ってくれたことへの感謝を声に乗せて。
「彼の者は 産土の神の御恵みを受け 世の為人の為に尽くし勤め奉りき 然るに今 世の常として 隠れましぬる事となりぬ」
来光くんが手を伸ばす。握られた払日揮毫筆をそっと手に取った。傷も汚れもない。
宮司が最期まで、守ってくれたからだ。
「この御霊を永久に安らかに 御霊の安み処に鎮め給い 守り幸わい給えと 畏み畏みも申す────……」
祝詞奏上が終わると、長い沈黙が流れた。誰もすぐに立ち上がって背を向けることなんて出来なかった。
「……帰るぞ」
恵衣くんは私たちに静かにそう声をかける。唇を噛み締めて立ち上がった。
本当なら土に埋めて弔ってあげたかった。けれどきっとすぐにこの社のことは知れ渡る。私たちには時間がない。
せめてもという気持ちなのか、嘉正くんは剥がした布団を綺麗に元に戻した。そして持ってきた水とおにぎりを枕元に供える。
精一杯の感謝を手向けて、私たちは社を後にした。



