洗濯物を回収したあと濡れ縁に腰掛けて服を畳んでいると、廊下が軋む音がした。顔を上げるよりも先に洗濯の山の向こう側に誰かが腰を下ろす。
「恵衣くん……」
夕日が沈み烏が悠々と山へ帰っていく姿を眺めたあと、ちらりとこちらを伺って洗濯物に手を伸ばした。
「いい所だな、ここ。静かで、穏やかだ」
なんだかここへ来てから────いや、来る前からずっと、みんなに気を使わせてばかりだ。申し訳ない気持ちになると同時に、心配かけまいと笑みを浮かべる。少し安堵したように表情を崩した恵衣くんは丁寧にバスタオルの四角を合わせて畳み始めた。
「本当にいいところだね。発案者の来光くんに感謝しなきゃ」
「神修を発つにしても、寝泊まりする場所が確保できていなかったからな。薫先生の別荘なら誰も寄り付かないし丁度いい」
薫先生の別荘、正確には神々廻家の別荘で、長期休暇時は来光くんがお世話になっている家だ。
急遽神修を発つことになった私たちは、今、薫先生の家を借りて拠点にしている。
昔、この近くにわくたかむの社の分社があってそこを管理する神職さまがこの家を使っていたけれど、土地開発の影響で社を移すことになり、その後はすっかり忘れられた廃屋になっていたらしい。そこを薫先生が手入れして、来光くんと長期休暇を過ごすための今の形にしたのだとか。
神修を発つことは薫先生にも伝えず出てきた。
だから薫先生の家を隠れ家なんかにしてバレやしないかと心配だったけれど、普段は神修内の教員専用の独身寮で過ごしているらしく、来光くんも"春休みが始まるまでは大丈夫だろう"と言っていたので当面の拠点にさせてもらったのだ。



