言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー


本当は昨晩、薫先生の別荘へ帰る予定だった。けれど場所が沖縄だったことと、鬼門を通過するための迎門の面は各々一枚しか持ってきていなかった。現世からも幽世からも帰れなくなって、結果帆負命のお宅にお邪魔することになったのだ。

気難しそうな(ひと)に見えた帆負命だったけれど、ムスッとした顔をしつつも黙々と私たちの分のご飯を用意し、風呂を沸かし、布団を整えてくれた。

神様が作ったご飯はもちろん物凄く美味しかったのだけれど恐れ多くて上手く喉を通らなかった。一人だけバクバク食べていた人がいたけれど。

口数は少なく表情もそんな感じなので何を考えているのかは分からないのだけれど、恐らく私たちのことを歓迎してくれているのだろう。

今日も、鳥居建立の作業を終えて社に帰ってくるなり「飯できるまで遊んでこい」と外に放り出され、今に至るというわけだ。


「なんか、不思議だね」


沈みゆく夕日をぼんやりと眺めた嘉正くんがおもむろにそう呟く。何が?と聞き返せば嘉正くんは私に視線を合わせて肩をすくめる。


「一年前の今頃は、昇階位試験とか授業のことで頭がいっぱいだったはずなのに、今は大切な人を守るためのことで頭がいっぱいだから。何もかも、変わったなって」


思えばこの二年間は色んなことがあったけれど、当たり前のように次の日は学校があって、安全で暖かい部屋があって、美味しいご飯があって、明日の心配をすることもなくぐっすり眠っていた。