唇を結んだ慶賀くんは今にも泣き出しそうな顔で鼻を赤くして私を見つめる。
「本当に、殺されたのか?」
息が詰まって、上手く呼吸できなかった。
床に崩れ落ちた亡き骸、輝きを失った目に半開きになった色のない唇。思い出す度に心臓は狂ったように乱れて拍動する。
「私の、せいなの」
あの日からどれほど泣いただろうか。泣いても聖仁さんは戻ってこない、悔やんでも私は許されない。そんなことは分かっているのに、毎晩どうしようもなく溢れて止まらない。
私がもっと早く過去を知っていたら、神々廻芽との関係に気付いていたら、誰かを巻き込むことはなかったのに。
「ごめん……! 目の前にいた巫寿たちの方がもっと辛いのに、こんなこと聞いて」
慶賀くんが信じられないと思う気持ちはわかる。私もそうだった。
次の日になれば食堂で顔を合わせて「おはよ、今日も頑張ろうね」と笑ってくれて、馬鹿なことをするクラスメイトたちを苦笑いで窘めて、夕飯を食べながら「最近瑞祥がね」と惚気話を聞かせてくれる。
そんな気がするのに、たしかに聖仁さんはもういなくて、心にぽっかりと穴が空いた虚しさだけが残っている。
「私が、私がもっと早くに────」
頭に広げた手ぬぐいが被せられた。シワひとつないピンとした手ぬぐいだ。
「雨降りそうだから、洗濯物取り込んできてくれ」
頭上からそんな声がした。いつもどうしようもなくなった時に、その声がふっと私に声をかけてくれる。
私はもう、そんなふうに優しさを与えられていい人間じゃないのに。



