職人のように手拭いを頭に巻いて、作務衣姿だった。大きな鷲鼻に鋭い眼光、目尻の皺は深く、おそらく玉じいと同じくらいの年齢だろう。
恐らく背は低いが身体は鍛え抜かれたように分厚く肩幅も広い。何より木槌を握る手がとても大きい。
おじいさんはぎゅうっと眉間に皺を寄せて私たちを睨むように見上げた。
「おじいさん人間!?」
「……はァ?」
「ここから出る方法分かりますか!?」
必死に詰め寄る私達に顔を顰めたおじいさん。
「お前ら、鬼脈で迷ってるのか?」
「そうなんです、もう僕ら一時間以上彷徨ってて!」
「どうか俺たちを助けてくださいぃぃッ!」
おじいさんの足にしがみついて必死に助けを乞う慶賀くんと来光くん。おじいさんはそんな二人を無言で見つめる。
そこで違和感に気付いた。やけにおじいさんを具体的に観察している自分がいる。
おじいさんはこの場所において、絶対に必要なものを持っていなかった。
私も、慶賀くんも来光くんも他のみんなも、迎門の面をつけている。これは鬼脈を通る際の通行手形だ。それにこれがないと現世から鬼脈に入る時に身体から魂が抜けてしまうので、いわば御守りの代わりでもある。
なのにおじいさんは、面をつけていなかった。
なぜ面をつけていないの? それに眞奉の妙な言い方も気になる。
この人は一体何者なの?
ハッ、と息を飲む音が聞こえた。隣に立っていた恵衣くんだ。
普段感情を顕にすることが無い恵衣くんが、おじいさんを見て驚愕の表情を浮かべている。



