言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー


流石に五時間も過ぎているとは思わないけれどか、私も大体四時間くらいは経ったように感じた。

恵衣くんがすっと右腕を差し出した。手首にはシンプルなシルバーの腕時計がつけてある。時計の針は昼の一時を少し過ぎた時刻を指していて、皆はぎょっと目を剥いた。


「えっ、鬼脈に潜ったのが昼前だったよな!? 迷い始めてまだ一時間しか経ってねぇのか!?」


恵衣くんの腕を掴んで腕時計を覗き込む慶賀くん。離せ馬鹿、と勢いよく頭を叩かれる。


「この暗闇の中にたった一時間いただけで、それだけ時間感覚がずれてこの疲労具合だ。五感も狂い始めてる。巫寿が何度も転びそうになったのもそれが原因だろうな。つまりここに長居するのは危険なんだよ」


皆の顔が引き攣ったのがわかった。私も落ち着いたはずの心臓が少しずつばくばくと音を立てはじめる。

なにかのテレビで見たことがある。陽の光が一切入ってこないところに人を住まわせてどんな影響があるのかを試した実験だった。どんどん時間感覚が狂って心身が衰弱していく、というような研究結果だったはずだ。

つまり私達にもそれと同じようなことが起きているということだ。


「や、ヤバいじゃん! 俺頭おかしくなるのか!?」

「慶賀はもう十分おかしいから安心しなよ! 嘉正と僕の方が一大事だろ!」

「なんだと!? 眼鏡かち割ってやろうかゴラ!」


ふざけてる場合かッ!と嘉正くんのお叱りが入って二人はシュンと口を閉じた。

本当にふざけいる場合じゃない。このまま心身が衰弱していけば出口を見つけるどころの話じゃなくなってくる。