「おおおお、落ちいて行動しよう皆!」
「まずお前が落ち着け来光!? 深呼吸だ、ヒッヒッフー!」
「それは子供産む時の呼吸法だよ慶賀! とにかく"押さない、走らない、喋らない"だよ!」
「それは避難訓練でしょ嘉正ッ!」
瞬く間にパニックは拡散した。あの嘉正くんですらこの慌てっぷりに、私も心臓が狂ったようにバクバクと暴れ出す。
鬼門と鬼門の間はただ真っ直ぐ進めば出られる。けれど私たちはロープを引っ張るために体の向きを変えてしまった。
進むべき方向を見失ってしまったということは、出口を見失ってしまったということだ。
「落ち着け馬鹿ども! とにかく全員固まって動くぞ。 お互いを見失わないようにしっかりロープを握ってろ!」
「お、おう!」
「わかった!」
みんながロープを握り直したのか、僅かに引っ張り合う感覚が手のひらに伝わってきた。
とはいえ自分がロープを握っている手でさえ見えない暗闇だ。皆の声や気配は感じられても、何も見えないというのはかなり怖い。
背中に冷たい汗が流れた。自分の呼吸が浅くなっているのが分かる。
落ち着け、大丈夫だ。見えないだけで、すぐそこにみんないる。
ぎゅっと目を瞑り深く息を吐いたその時。
ロープを握っていない方の手に、そっと誰かの指が触れた。



