「ついてきてるな来光!?」
「なんとかね! でもこの後どうするの!?」
「とにかく全力でロープを引っ張って嘉正たちと合流する! その後現世のむしなの社から逃げるぞ!」
答えるよりも先にロープを掴んで勢いよく引き戻した。初めは抵抗を感じたけれど、ロープの先にいる二人も私たちの意図に気づいたらしく直ぐにスルスルと動き始めた。
「緊急事態の合図決めただろ!? 急に引っ張るなよ恵衣!」
直ぐに遠くから慶賀くんの叫ぶ声が聞こえた。もっと時間がかかるかと思っていたけれど、捜索時間終了が近かったからか近くまで戻ってきていたらしい。
二人の荒い息遣いが近くで聞こえる。無事合流できたようだ。
「緊急事態発生だ、黒狐族に襲われた」
「えッ、みんな怪我は!?」
「俺たちは問題ない。巫寿の十二神使が足止めしてくれているうちに、むしなの社の鬼門から逃げるぞ」
了解、とみんなの声が揃う。「さあ行こう」と嘉正くんが声をかけたところで、みんながピタリと動きを止めたのが気配で分かった。
心臓の拍動すら聞こえてくる静かな空間、自分がまっすぐ立っているのかも分からなくなるほどの暗闇に、こめかみにじわりと嫌な汗が滲んだ。
「行くって、どっちに……?」
慶賀くんの静かな問い掛けに、答えられた人はいなかった。



