恵衣くんが私の隣に並んだ。
「不気味な程に静かだな」
「恵衣くんもそう思う? なんだか怖いね」
「ああ。妖達も不穏な空気を感じ取っているんだろうな」
恵衣くんがチラリと建物の影に視線を向けた。チラチラとこちらを伺う影がある。連れ立って歩いている私たちを警戒しているのだろうか。
逃げるように去っていった背中に恵衣くんはため息を吐いた。
「十分気をつけろよ。敵はどこから来るのか分からないんだからな」
うん、と深く頷く。慶賀くんの隣に並ぶと、恵衣くんはまた最後尾に戻って行った。
二時間ほど歩いて、「むしなの社」の鬼門の近くまで来た。昼間に来たお陰で人や妖の姿は一切ない。鬼門が見える建物の影に隠れて、私たちはお手製ロープを取り出した。
「作戦通り、鬼脈の中へはいるのは俺と慶賀。恵衣、来光、巫寿の三人は見張りとロープの管理をお願い。捜索時間は1時間で、緊急事態発生の場合はロープを三回引っ張る。その場合直ちにロープを引いて俺らを回収して」
事前に決めた役割とルールをみんなで再確認して深く頷く。
そして嘉正くんと慶賀くんは強ばった面持ちで互いの腰にロープを巻き付けた。二人とも少し顔色が悪い。やはり緊張しているんだろうか。
「おいおい嘉正、死にそうな顔してるけど大丈夫か? 俺だけで行って来てやろうか?」
「何言ってんの? 慶賀こそ膝ガクガクじゃん。ろくに歩けないなら俺一人で行くよ」
「ばーか、これは武者震いだよ」



