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ふと、膨らみかけた桜のつぼみが目に入って足を止めた。蕾は青くまだ硬い。開花まで早くともひと月はかかるだろう。
ふと頭に影が差してゆっくりと顔を上げた。被っていたフードがはらりと落ちる。分厚い雲がゆっくりと太陽を覆い隠しているところだった。
「馬鹿、しっかり被ってろ」
そんな声とともに私の落ちたフードを深く被させたその人は、持っていたスーパーの買い物袋をひょいと取り上げると私の手を掴みずんずんと大股で歩き出す。
同じようにキャップを深く被った後頭部をぼんやりと見つめる。
「待って。お花を……」
「分かってる。スーパーで一緒に買った」
買い物袋には大根と一緒に榊の葉が刺さっている。
ありがとうと礼を言えば、応えるように握る手に力が込められた。
公共交通機関は移動中に何かがあった時に逃げ場がないという理由で、スーパーへは毎回往復1時間かけて徒歩で向かっている。
田んぼと民家しかない場所だ。隣家へは10分近く歩かなければたどり着かない。
本当は私以外のメンバーが行った方が安全だし面倒くさくないのだろうけれど、「ずっと家に篭もりっきりじゃさすがに嫌になるでしょ?」と買い物当番のメンバーに加えてくれたのだ。
家を囲う塀が見えてきた。次の瞬間、風がふわりと頬を撫でるような感覚がして冷水を浴びたように全身が冴え渡る。この家を守る結界だ。
ふと、膨らみかけた桜のつぼみが目に入って足を止めた。蕾は青くまだ硬い。開花まで早くともひと月はかかるだろう。
ふと頭に影が差してゆっくりと顔を上げた。被っていたフードがはらりと落ちる。分厚い雲がゆっくりと太陽を覆い隠しているところだった。
「馬鹿、しっかり被ってろ」
そんな声とともに私の落ちたフードを深く被させたその人は、持っていたスーパーの買い物袋をひょいと取り上げると私の手を掴みずんずんと大股で歩き出す。
同じようにキャップを深く被った後頭部をぼんやりと見つめる。
「待って。お花を……」
「分かってる。スーパーで一緒に買った」
買い物袋には大根と一緒に榊の葉が刺さっている。
ありがとうと礼を言えば、応えるように握る手に力が込められた。
公共交通機関は移動中に何かがあった時に逃げ場がないという理由で、スーパーへは毎回往復1時間かけて徒歩で向かっている。
田んぼと民家しかない場所だ。隣家へは10分近く歩かなければたどり着かない。
本当は私以外のメンバーが行った方が安全だし面倒くさくないのだろうけれど、「ずっと家に篭もりっきりじゃさすがに嫌になるでしょ?」と買い物当番のメンバーに加えてくれたのだ。
家を囲う塀が見えてきた。次の瞬間、風がふわりと頬を撫でるような感覚がして冷水を浴びたように全身が冴え渡る。この家を守る結界だ。



