時刻は朝の十一時、妖たちからすれば真夜中だ。鬼脈の中を歩く妖は少なく、往来は閑散としていた。
けれどどうやら、閑散とした雰囲気を感じるのは人通りの少なさだけじゃないらしい。前に来た時は昼夜問わず開いていた店が、半分近く閉まっている。
出歩く妖たちも妙に早足で、店先で店主と話す時ですら周りを警戒するように声を潜めている。昼間だと言うのに陰鬱とした重暗い雰囲気が漂っていた。
「なんか、雰囲気変わったな」
キョロキョロと辺りを見回した慶賀くんがポツリと呟く。
「そりゃそうだよ。現世も幽世も、毎日物騒なニュースばかり聞こえてくるからね」
現世では去年の冬頃から行方不明事件が多発しており、「神隠し事件」としてニュースにも取り上げられている。
幽世でも同様に妖が行方不明になったり、妖同士の衝突が起きているようだ。神々廻芽側について妖一族を襲っていた黒狐一族の残党が関わっているという噂も聞いている。どこもかしこも、まるで戦争が始まりそうな緊張があった。
「おい、遅れてる。前見て歩け」
最後尾を歩いていたはずの恵衣くんに声をかけられた。隣を歩いていたはずの慶賀くんの背中が先にある。



