言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー


薫先生のお家には大きな書庫がある。来光くん曰く前の家主が大変な勉強家で、十畳の部屋の壁一面に天井に届くほどの高さの本棚が置いてあり、それでも収まりきれないほどの蔵書がある。

どれも神職や祝詞、妖に関連する書物であり、来光くんの祝詞に関する関心はこの場所から生まれたらしい。


私と来光くんはひと月前からここに籠って、ある祝詞を探している。

今朝から脚立の1番上に座ってパラパラとページをめくっていた来光くんが「もう限界!」と勢いよく本を閉じた。


「巫寿ちゃん休憩しよ! お茶入れよう! もう限界!」


ドタバタ降りてきた来光くんに小さく笑う。


「ふふ、了解」

「頭切りかえたいから、大学芋でもつくるよ。さつま芋もそろそろ傷みそうだし」


お菓子作りが得意な来光くんはこの家に来てから色んなお菓子を作ってくれる。無駄遣いができないので極力お菓子の購入は控えており、たまにこうして来光くんが作ってくれるお菓子が私たちのご褒美になっている。

台所へ向かいながら大きく伸びをした。


「一ヶ月近く色々探したけどなんにも出てこないね。審神者さまが"最後に使った祝詞"について」

「そうだね。そもそも空亡戦についての記録もかなり少ないし、書いてあったとしても"当時の審神者・奉日本(たかもと)志ようが現れ、空亡の一部を祓った"くらいしか書かれてないし」