「お前は、聖仁さんが死ぬところを見てねぇからそんなことが言えんだよ」
怒りに震える低い声。その一言にみんなは息を飲んだ。
「聖仁さんがどんな風に死んだが知ってるか? 神々廻芽の配下に呪殺されたんだよ。聖仁さんがどんな表情だったか分かるか? 身体はどす黒く染って顔は苦痛に歪んで、でも頬に涙のあとがなかったんだよ。泣く時間すら与えられずに、一瞬で、アイツは蚊を叩き殺すみたいに容易く聖仁さんの命を奪ったんだぞ」
泰紀くんも私と同じで、聖仁さんが殺される瞬間を見ていた。
あとから聞いた話で、あの神社から逃げる時に泰紀くんは聖仁さんの遺体を持って帰ろう一度は肩に担いだらしい。けれど亀世さんをひっぱりながら人ひとりを担いで走るのは厳しく、歯を食いしばりながらあの場に置いてきたのだとか。
きっと私たちの中の誰よりも、亡くなったあとの聖仁さんの顔を見ていたはずだ。
泰紀くんは掴んだ手を勢いよく振り払った。目元が赤い。月明かりで瞳が潤んでいるように見える。
「仲間を守りたくねぇのかって聞いたよな。守りてぇに決まってんだろッ! 俺だって嫌だよ、もう誰かがあんな目に遭うところなんて、絶対に見たくねぇよッ……!」
でもさ、と震える声で続ける。
「でもさ、この先死ぬかもしれないって分かってんだろ。お前らも大事だ、先生も、後輩も先輩も。だけど俺がもし死ねば、うちの社は誰が守る? 恵理は誰が守る?」
挙がった親友の名前と、社という単語。そのふたつはどちらもこれまで泰紀くんがずっと大切に守ってきたものだった。



