その場にいた誰もが、言葉の意味をすぐさま理解することが出来ず数秒固まった。一番に我に返ったのは慶賀くんだった。
「お前今なんつった? 一緒に、行けねぇ……? どういうことだよ? まさかお前みたいなガサツが、この期に及んで自分のベッドじゃないと眠れないんですぅ〜みたいな繊細なこというのか?」
アハハ、と声を上げて笑った慶賀くん。けれどその顔は笑っておらず表情が引き攣っている。
泰紀くんはまゆひとつ動かさずじっと私たちを見ている。慶賀くんの笑い声がピタリと止まった。
「……お前それ、本気か?」
低い声が静かに尋ねる。泰紀くんが頷くと同時に、慶賀くんがその胸ぐらを掴んだ。
「巫寿は仲間だろ!? 仲間が一人で危険な場所に赴こうとしてるってのに、お前は安全な場所で傍観かよ!? どんだけ腐った根性してんだよッ!」
慶賀やめろ!と来光くんが間に入ろうとするけれど頭に血が上っているのか周りが見えていないらしい。お構いなしに胸ぐらを揺すり続ける。
「お前だって巫寿に何度も助けてもらったことあんだろ! 巫寿は俺たちを守るために一人で立ち向かおうとしてるんだ! なのにお前はなんとも思わないのかよッ!」
泰紀くんはされるがままだった。項垂れるように俯き黙り込んでいる。
「仲間を守りたいとは、思わねぇのかよッ!?」
泰紀くんが胸ぐらを掴む手を勢いよく掴んだ。怒りに満ちた目が鋭く慶賀くんを睨みつける。
その迫力に思わず息が止まる。泰紀くんがこんな表情をするのを初めて見た。



