それじゃみんなを守れない。私一人で何とかしなきゃ。私一人で。私が。
「馬鹿なのか、お前」
その一言が、ギリギリを保っていたコップの水を溢れさせた。
まつ毛を超えてぽたりと落ちた大粒の雫。それが引き金になったかのように次から次へと涙が溢れた。
熱い。目の前が曇る。絶対に泣かないように、必死に我慢していたのに。
「だって……だって、こうするしかないんだよッ!」
声が振るえないように力を込めれば、思った以上に大きな声が出た。恵衣くんも皆も驚いたように私の顔を凝視している。
「皆を守るには私が行くしかないのッ! 先代の審神者が先見の明で未来を見た、私か彼女が相打ちで空亡を倒す夢……!」
恵衣くんの腕を強く振り払う。頬を叩かれたような顔をした。瞳が激しく動揺している。
「相打ちって、は? どういう事だよ……?」
「言葉の通りだよ。空亡を滅ぼすには先代の審神者か私が相打ちでトドメを刺すしかないの。でも先代の審神者はもういない。だったら、それが出来るのは私しかいないでしょ」
嘉正くんが目を見開いて息を飲んだ。口元に手を当てて言葉を失う来光くん。慶賀くんと泰紀くんは呆然とその場に立ち尽くした。
「……先見の明で見た未来は、変えられるはずだろ。これまでだってそうだった」
感情を抑え込むように深く息を吐いた恵衣くんが私を見た。小さく首を振る。
私も最初はそう思っていた。けれど、過去の中で志ようさんは間違いなく「変えられない」と言った。
それに何度同じ未来を先見の明で見るなんて、私はこれまでに一度もなかった。つまりそれほど迫り来る未来は明確で、断定的なものだということだ。



