思わず目を瞠る。
薫先生にはもちろん何一つ話していない。学校を出ていって空亡を倒すなんて言えば間違いなくとめられると思ったからだ。
ほんのわずかな時間しか会話しなかった。勘づかれないように必死に平静を振舞っていたはずなのに、薫先生には全てお見通しだったんだ。
普段はちゃらんぽらんで適当で、本当に先生なのか疑うようなところもある。けれども誰よりも私たちのことをよく見ていて、信じて、成長を喜んでくれる人が薫先生だ。
「巫寿ちゃんの帰りが遅くて心配だったから、皆で待ってたんだよ。黙ってどこかへ行くつもりだったの?」
「薫先生の、"巫寿を止めろ"ってどういうこと? 巫寿はこれから何をするつもりなの?」
「真夜中にそんな荷物背負って。巫女頭にバレたら罰則になんぞ?」
皆が心配そうに私の顔を覗き込む。
言えるわけが無い。だって優しい皆は、私が事情を話せば必ず止めにくる。でもそれじゃダメなんだ。みんなを守るには私がここから離れるしかないんだ。
言えない。言えないよ。
口を開けば甘えてしまいそうでぎゅっと唇を結び首を振る。
「一人で何かしようとしてるなら、絶対にそんなのダメだよ。これまで散々怒られてきたでしょ」
「そーだそーだ! 何か困ってるなら俺らも手伝うからさ!」
それがダメなんだ。みんなを巻き込みたくないから私はここを去ることを決めたんだ。
皆の優しさが今は苦しい。奥歯をかみ締めて首を振る。
「俺ら、そんなに頼りないか?」
「これまで皆で色んなこと乗り越えてきたじゃん。今回だってきっと上手くいくよ」



