喉の奥の熱を何度も飲み込んで足を動かす。そして唇を噛み締めたその時。
「巫寿……ッ!」
名前が呼ばれた。私がどうしようもなく辛い時に寄り添ってくれた声だ。どれだけその声に励まされ、背中を押してもらったか。
「巫寿ちゃん!」
「待って巫寿!」
砂利道を駆け抜けるいくつもの足跡が後ろから近付いてくる。
大好きなみんなの声。無視することなんてできなかった。勢いよく二の腕が掴まれて振り返る。いつも冷静でちょっと人を小馬鹿にするような瞳は、不安で激しく揺らいでいる。
「こんな夜更けに、どこ行くつもりだよ」
私の腕を掴みながら、膝に反対の手をついて肩で息をする。他のみんなもそうだ、必死に走り回ったように顔中に汗をかいていて、なぜか泣きそうな顔をしている。
「恵衣くん、皆……」
「ハァ……俺もいるぞ……」
泰紀くんの影からゼェハァと息を切らして顔を出したその人。
「け、慶賀くん……? うそ、どうして」
数ヶ月ぶりに再会した慶賀くんにぽかんと口を開く。
慶賀くんは二学期の終わりごろに芽さんの内通者だということがバレて、ずっと本庁の監視下にいると聞いた。
「薫先生が急に来て、監視のオッサンたちをボッコボコにしたかと思ったら俺のことを外に連れ出してくれたんだよ。"巫寿のことを君らで止めろ"って」



