あいつ────それが誰を指すのかは尋ねずとも分かる。
ひと月前、私が神修を発つと決めた日の夜。私たちとは別の道を歩むことに決めた泰紀くんのことだ。
『俺は謝らねぇ。これが俺の信念で、俺が守りたいものだから』
今の慶賀くんと同じ、どこか迷いながらも自分の道を選びとった顔をしてそう言った。
誰が正しいとか誰が間違っているとか、そういうことではない。私はみんなを守りたくて、皆も守りたいものがあった。もちろん泰紀くんにも守りたいものがあって、ただそれを貫いただけだ。
慶賀くんは一度芽さんの下につき内通者になって、結果的に皆を裏切ることになった。けれど私も皆もそれを許し、彼の手を取って今こうして同じ道を歩んでいる。裏切ってしまったことにずっと後悔している慶賀くんにとっては、今回の戦いに加わることが贖罪であり、皆への恩返しだったのだろう。
だからこそ、袂を分かつことを選んだ泰紀くんが許せずにいるんだ。
「腰抜けのヘナチョコ野郎。泰紀なんて大っ嫌いだ」
それが本心じゃないことは、きっと本人が一番わかっている。
けれどそれだけ慶賀くんにとって、隣に泰紀くんがいるということは当たり前で、信頼できて安心できる存在だったのだろう。



