言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー


でもな、と押し上げた眼鏡の奥の瞳は力強く揺るがない。それはさっき見た鶴吉と同じ、神職の顔だった。


「────綺麗事でも救える命があるなら、恐怖も不安も未来も全部差し置いて、自分を差し出すのが神様から力を貰った私たちの使命なんだよ」


とん、と胸の奥を叩かれた気がした。


「怖い。怖いに決まってる。生まれた時からあるものがなくなる未来なんて恐ろしくてたまらない。それでもやるんだよ、怖くてもやるんだよ。それが大きな力を授かった私達の責任だからだ。恐怖ですら力に変えて、導き守るんだ。それが神職だからだ」


亀世の握られた拳が微かに震えている。自分の恐怖と向き合うのはそれほど勇気がいることだ。

けれど彼女は目を逸らさない。自分の恐怖を知り、向き合って、受け入れた上で神職としての心得を貫いた。

彼女は間違いなく、強い神職(ひと)だ。

文車妖妃がふわりと棚から飛び降りて亀世の前に着地する。閉じた扇子で亀世の顎を持ち上げて、その瞳を覗き込む。

揺るがない。自分の恥も不安も全て晒け出した、偽りのない目だ。


「自分の恐怖心を認めた上で、己を犠牲にする覚悟があるようだ。お前の答えを────認めよう」


亀世が止めていた息をハッと短く吐き出した。肩の力が抜けたのがわかる。

これまでの真剣だった表情は、振り返った時にはもうすっかりと消えてい。