「……答えは"助ける"だ」
答えた亀世に文車妖妃は目を細めた。
「自分の力を失ってでも助けると申すか? それはその場しのぎの建前ではないか? お前は本当にその瞬間に直面した時、助けることができるか?」
本当にその瞬間に直面した時、助けられるか。
文車妖妃の言葉が重く心にのしかかり、泰紀は視線をつま先に落とした。
たしかに神職の心得というものは綺麗事が多い。口ではどうとでも言えるが、実際に行動できるかどうかは結局神職次第だ。
俺はもしそんな瞬間が来たとして、神職らしい行動ができるだろうか。自分の力を失ってでも誰かを助けることができるだろうか。
その選択肢を迫られることも、力を失うことも、考えるだけで恐ろしい。
力を失うというのは、今の日常全てを失うということだ。今の日常を手放してまで、自分を犠牲にすることなんて。
「……怖ぇよ」
漏れてしまった本音は鶴吉に届いたらしい。
鶴吉の手が乱雑に泰紀の頭を撫でた。
「怖くない奴なんていねぇよ。俺も、亀世も」
え、と顔を上げる。
鶴吉は真っ直ぐに亀世の背中を見つめたまま笑っていた。
「ああそうだな。綺麗事かもな」
亀世は呆れたように息を吐いて、ぐしゃぐしゃと後頭部をかいた。



