言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー


あれは……怪し火だ。

来たな、と亀代が不敵に笑う。


「ここは知解(ちかい)の座というらしい。資料室を閲覧するに値する神職か、知識が試される」

「知解の座……」


聞いてねぇよ恵衣。

頼んだ、と通行札を託してきた同級生を思い出して恨む。

そういう情報は事前共有してくれよ。


「脱出条件は"祝詞を正しく奏上して、この廊下を抜けること"────ただそれだけだ」

「ただそれだけって……」


奥から迫り来る怪し火を睨む。

"祝詞を正しく奏上する"つまり怪し火を祓除すればいいと言うことか。

ふぅとひとつ息を吐いて胸の前で手を合わせた。

妖し火の祓除は「鎮火祝詞」。高等部1年の必修祝詞だ。これまでも嫌という程使ってきた。


「習ってない祝詞の奏上が必要な時は、手伝ってくれよ!」

「おう、任せとけ」


鶴吉が泰紀の肩を叩いて不敵に笑うと隣に立った。二人のそんなやり取りに欠伸をこぼした亀代は廊下の隅に腰を下ろした。


「よし、あとはお前らに任せた」

「ずりーぞ亀代、ジャン負けだろ!」


文句を言う鶴吉に泰紀はずっこける。


「ゲーム感覚で順番決めるなよッ!」


クラスメイトたちと一緒ならボケる側の方が多いのに、今朝からツッコんでばかりだ。

この調子で大丈夫なんだろうか。一抹の不安を抱きながら合わせた手のひらに力を込めた。