本庁の役人たちはほとんどが専科生の卒業式に出席しているので庁舎内はとても静かだった。
手薄になっているとはいえ堂々と廊下を曲がり階段を登っていく双子に、泰紀は怯えながらもついていく。
「そんなに堂々と歩いて大丈夫なのかよ?」
きょろきょろと当たりを見回しながら声を潜めて尋ねると、亀代は眼鏡を押し上げて「問題ない」と笑う。
「そもそも役人があまり使わない道を選んで歩いてる」
「なんでそんな事知ってんだよ……」
「軽く三十回はバレずに忍び込んでいるからな」
五十回はバレたけどな、と鶴吉が笑って付け足す。
何やってんだよこの人達は。
コソコソしている自分が馬鹿らしくなって、身を縮めるのはやめた。階段を上りながら踊り場の窓の外を見る。
この時期の神修は、上から見下ろせば桃色の絨毯が敷き詰められたかように桃の花が咲き誇っている景色が見える。
去年の今頃、まだ付き合う前だった恵理を誘ってひな祭りの神事を見に行った。一年前だと言うのに、もう随分と遠い昔のような気がする。
恵理と春休みに会う約束はしていない。暫く会えないかもしれない事を伝えると、泣かせてしまった。
親友の巫寿とも連絡が取れなくなって、現世も行方不明事件がまだ続いている。なんとなく"こちら側"が危ない状況であることを察していたらしい。
心配させたくなかったから詳しい話はしなかった。夜は出歩かないこと、外を歩く時は自分が渡したお守りを持ち歩くことを約束させた。
『泰紀や巫寿のために、何も出来ない自分が悔しい。私にも特別な力があれば良かったのに』
涙の理由をそう語った恵理に、体の芯が震えた。



