本庁の裏口が見える場所まで来ると、泰紀と亀代はそばの植え込みに隠れた。枝の間から様子を伺うと、きょろきょろと辺りを伺いながら裏口に忍び寄る鶴吉の姿がある。
手には先程亀代が投げた小瓶がしっかりと握られていた。
「亀代さん……マジであの薬なに? ヤバいブツじゃないよな?」
「今から建物に侵入しようとしているやつがマトモな薬を使うと思うのか?」
とても不思議そうに聞き返されて天を仰ぐ。
そうだ、三年たちはクラスメイトたち以上にマトモじゃなかった。
「ただの漢方薬だよ。茯苓を核に白朮と遠志と石菖蒲、刻んだ艾葉に薄荷を少々入れた────」
漢方薬学の授業は比較的真面目に聞いている方だが、聞いた事のないレシピだ。
遠くで鶴吉が走り出した。裏口の前に立って小瓶の蓋を開けると、扉に飾られている御札に数滴かけた。
恵衣曰く、本庁の扉には必ず御札が入ってある。侵入を阻害する御札だ。通行札がないと弾き飛ばされるらしく、建物の奥に行けば行くほど強固な結界になっているのだとか。
目を凝らして鶴吉の手元を見る。すると御札の文字が焼けこげるように赤く赤茶色く光ったかと思うと、光った部分がゆっくりとただの白い紙に戻っていく。
常識を超えた光景に泰紀は呆然とそれを眺めた。
「ただの御札を無効化する漢方薬だよ」
「それのどこがただの漢方薬なんだよ!?」
鶴吉がこちらに向かって手を振っている。



