「嘘じゃないね? 隠し事もなしだよ?」
「だから知らないってば! じゃあな、また四月!」
扉を塞ぐように立っていた薫の脇をすり抜けて廊下に飛び出す。授業終わりの学生たちが、これから始まる春休みに思いを馳せて軽やかな足取りで歩いている。
そのまま迷わず寮へ走る。自室に飛び込んで、枕の下に隠していたそれを取り出した。
紐が通された木札だ。表面には「通行許可札」とあり裏面は御札のように崩した字で何かが書かれている。恐らく本庁内に貼ってある結界を通り抜けるための札なのだろう。
クラスメイトたちと別れた夜、直前に恵衣からこれを手渡されてあることを頼まれた。
『泰紀、ひとつ頼めるか』
普段は憮然とした態度で己を小馬鹿にするように鼻で笑う男が、真剣な顔で話しかけてきた。
『な、なんだよ。お前が下手に出てくると怖いんだけど』
『これ、受け取れ』
そう言って渡されたのがこの木札だった。
『本庁の中を自由に歩き回れる札だ。これを使って本庁内の資料室から、空亡戦に関する禄輪禰宜の報告書を探し出してくれ』
その真剣な目には心当たりがあった。誰かを守りたいと心から願う奴の目立った。
断る理由はない。今晩ここで袂を分かつことになったとしても、目指している場所は同じだと思っていた。
力強く木札を受け取った。
『俺からもひとついいか?』
ん?と恵衣が首を傾げる。
『慶賀のこと、頼む。あいつ無茶ばっかりするからさ、またバカなことしないようにしっかり見張っててくれ』
唯一無二の親友は、さっきから一度も目が合わなかった。何度か話しかけようとしたけれど、その背中は自分を頑なに拒んでいた。



