言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー


避難経路はこの家へ来た時に皆で確認した。現世で襲われた場合、一番近い鬼門から鬼脈に逃げる手筈になっている。

カウントが半分を切った。皆の心臓の音が聞こえてくる気がする。自分の心臓もそれ以上に大きく脈打っていた。

大丈夫、逃げれる。逃げ足が早いのは、私たちの取り柄だ。


三、二、一……!


パンッと皆の柏手が揃った。


「掛まくも恐き山犬神(やまいぬのかみ)の 大前(おおまえ)に恐み恐みも(もう)す 子孫の八十続(やそつづ)きに至るまで 五穀豊穣を恵み給ひて ()の守り()の守り 家の守りに(さきわ)(たま)へと 恐み恐みも白す……!」


祝詞がつむぎ終わると同時に天井に漂っていた灰色の煙がぶわりと渦を巻き滝のように落ちてきた。

床で跳ね返った煙が形を作る。狼のような長い鼻にスラリとした長い手足。鋭い牙をむきだして宙を駆け抜けるそれは、山犬神の眷属だ。

飛びかかった眷属は伊也を家の外へ突き飛ばした。

その瞬間、私達は玄関を飛び出して勢いよく駆け出す。


「巫寿ちゃん屈んで!」


咄嗟に頭を守るようにして小さくなる。

振り向いた来光くんがリュックのポケットから取り出した何かを家の中に放り投げた。間髪入れずにボンッ!と爆発音を立てて玄関は白い煙で包まれる。

慶賀くんの煙玉だ。最近唐辛子入りに改良されて、目潰しの効果がカスタマイズされている。


「おーい皆! 良かった合流できた!」


家の門を飛び出したところで、裏口から出てきたらしい慶賀くんが大汗をかきながら走ってくる。手にはしっかりと払日揮毫筆(ふつじつきごうひつ)は握られていた。