言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー


「風の神 志那都比古(しなつひこ)大神(おおかみ) 清き風もて 祓い給え……ッ!」


嘉正くんが祝詞を奏上したその瞬間、どこからが清らかな風が吹き抜けて倒れてきた掛け時計が起動を変えて私たちの後ろに落ちた。

ナイス嘉正!と来光くんが背中を叩く。


「前見て走れ巫寿!」


戦闘を走る恵衣くんが叫ぶ。はい!と噛み付くように叫んで必死に足を回した。

炎の広がるスピードが速い。早くここから出ないと私たち全員逃げ切る前に焼け死んでしまう。

降りかかる火の粉に顔を顰めながら走る。息を吸う度に喉が焼け付く。

あと少しで玄関だ。ここを抜け出して蔵にいる慶賀くんと合流を。

玄関の開け放たれた扉が見えた。あと少しだ、と足に力が入ったその時、ハッと息を飲んで先頭の恵衣くんの服を勢いよく掴む。


「止まってッ!」


慶賀くんは勝手口の方角から飛び出して行ったはずだ。だとしたら玄関扉が開いているのはおかしい。

急に足を止めた恵衣くんの背中に皆がぶつかる。何!?と来光くんがズレた眼鏡を押し上げた。


「アハハッ、アンタはほんまに勘がええな巫寿ちゃん」


耳に残る女の高い声。胸騒ぎは確証へと変わる。

玄関扉を白い足がくぐった。腰まである緩く波打った黄みがかった髪に、紅玉(こうぎょく)の瞳。鮮血のように真っ赤な色をした唇がにぃと弧を描いた。


「ほんまうち、アンタのこと心底嫌いやわ」


藍色の着物に身をつつみ、獣耳を生やしたその妖。

信田妻狐一族を裏切り野狐(やこ)堕ちした妖狐、そして私たちの友達である信乃(しの)くんのお姉さん。


「伊也……ッ!」

「人間風情が気安く名前で呼ばんとってくれる? うちを名前で呼んでええんは、(めぐむ)さまだけや」


尾っぽの先ににぼわりと怪し火をつけた伊也が赤い目を細めて私を睨みつけた。