言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー


「なんと。私の方が当たりじゃったか」


しゃがれた低い男の声。勝手口の影からゆらりと現れたその姿に私達は息を飲んだ。

好々爺のような顔をしているが、不自然に伸びきった後頭部。優しく細められた目の奥の瞳は猛禽類のように鋭く私たちを捉える。


「愚かな童たちよ。このような良い月夜に、何をそんなに急いでおる?」


────ぬらりひょん。

彼とは八瀬童子(やせどうじ)の里で一度会ったことがある。芽さんの配下のひとりだ。

ほかの妖に比べて強い妖力を持つ訳でもないけれど、ただこの妖は知能が高い。人間よりも数十倍も高い知能を持っていて敵に回すと非常に厄介な妖だ。


「ぬらりひょんの妖力ってなんだっけ……」


青い顔をした来光くんが呟く。

その瞬間、流し台に置きっぱなしになっていた包丁がカタカタと音を立てて小刻みに揺れ始めた。

ぬらりひょんの妖力は────念動。


「祓え給い 清め給え 神ながら守り給い 幸え給え!」


包丁は私たち目掛けてヒュッと宙を横切った。

咄嗟に奏上した私の略拝詞が作用して、目の前でカンッと弾け飛ぶ。ナイス巫寿!と嘉正くんが私の背中を叩くと同時に私の手首を握って走り出した。

気付けば廊下には灰色の煙が充満していた。伊也が来ている。他の場所にも火をつけたんだ。

振り返る。ぬらりひょんがのんびりと歩きながら私たちを追いかけている。バッとこちらに向かって手を差し出したその瞬間、廊下にかけられていた柱時計がバキッと音を立てて壁から外れ私たちに向かって倒れてきた。