翌朝。
文化祭当日。
図書室の展示コーナーは、生徒たちで賑わっていた。
「志摩先輩、これ追加分のPOPです」
「あ、ありがとう……」
自然と名前を呼びたい衝動がこみ上げる。
「……湊」
「っ!」
湊は嬉しそうに笑う。
その笑顔が眩しくて、こっちまで照れてしまう。
「なに、急に名前呼んで」
「呼びたくなっただけ」
「……俺も呼んでいいですか」
「どうぞ」
「……悠人」
「っ……!」
「へへ」
「……やめろ、かわいいとかやめろ」
「言ってないですよ?」
言ってるような顔で笑うな。
◇
昼頃、クラスメイトの加藤が近づいてきた。
「なぁ志摩、昨日の展示すげー評判いいぞ。お、早瀬もいるじゃん。仲いいな〜」
「まぁ、委員だからね」
「じゃ、志摩のこと“ゆうと”って呼んでみても――」
「やめてください」
湊が即答した。
加藤が目を丸くする。
「え、なんで?」
「……先輩の名前、呼んでいいのは、俺だけがいいです」
「え……? あ、え!? そ、そういう!?」
加藤は声を裏返らせて去っていった。
「……湊」
「すみません、言いすぎました?」
「いや……嬉しかった」
「ほんとですか……?」
「うん。俺も、湊にだけ呼ばれたい」
湊は、ぎゅっと唇を噛んで、俺を見つめる。
「じゃあ、これからも……いっぱい呼びます」
「うん。呼んで」
「……悠人」
「……っ」
「顔赤いですよ?」
「うるさい」
「俺の彼氏なのに」
「……やめろ、そういうこと外で言うな」
「言ってませんよ? 顔に書いてるだけです」
「どんな顔だよ……」
笑い合う俺たちを、近くのクラスメイトたちが微笑ましそうに見ていた。
――この二人、いいよね。
そんな声が確かに聞こえた。
その一言が、胸にじんわり染みた。
◇
文化祭が終わって帰る頃、外には小さな虹がかかっていた。
雨は上がり、湿った風が心地いい。
「悠人」
「ん?」
「……今日からは、帰り道、毎日一緒に帰ってくれますか」
「もちろん」
「……よかった」
「湊、嬉しそう」
「そりゃ……嬉しいですよ」
繋いだ手を、湊が少し強く握り直す。
「悠人」
「うん」
「……大好きです」
「……俺も」
名前を呼ぶたびに、世界が少し明るくなる気がした。
名前を呼ばれるたびに、自分が特別になれた。
――これからもきっと。
この先、何年経っても。
夕陽の差し込む校舎を背に、俺たちは並んで歩き出した。
名前が、ふたりの合図になる。
そんな恋がここから始まる。
文化祭当日。
図書室の展示コーナーは、生徒たちで賑わっていた。
「志摩先輩、これ追加分のPOPです」
「あ、ありがとう……」
自然と名前を呼びたい衝動がこみ上げる。
「……湊」
「っ!」
湊は嬉しそうに笑う。
その笑顔が眩しくて、こっちまで照れてしまう。
「なに、急に名前呼んで」
「呼びたくなっただけ」
「……俺も呼んでいいですか」
「どうぞ」
「……悠人」
「っ……!」
「へへ」
「……やめろ、かわいいとかやめろ」
「言ってないですよ?」
言ってるような顔で笑うな。
◇
昼頃、クラスメイトの加藤が近づいてきた。
「なぁ志摩、昨日の展示すげー評判いいぞ。お、早瀬もいるじゃん。仲いいな〜」
「まぁ、委員だからね」
「じゃ、志摩のこと“ゆうと”って呼んでみても――」
「やめてください」
湊が即答した。
加藤が目を丸くする。
「え、なんで?」
「……先輩の名前、呼んでいいのは、俺だけがいいです」
「え……? あ、え!? そ、そういう!?」
加藤は声を裏返らせて去っていった。
「……湊」
「すみません、言いすぎました?」
「いや……嬉しかった」
「ほんとですか……?」
「うん。俺も、湊にだけ呼ばれたい」
湊は、ぎゅっと唇を噛んで、俺を見つめる。
「じゃあ、これからも……いっぱい呼びます」
「うん。呼んで」
「……悠人」
「……っ」
「顔赤いですよ?」
「うるさい」
「俺の彼氏なのに」
「……やめろ、そういうこと外で言うな」
「言ってませんよ? 顔に書いてるだけです」
「どんな顔だよ……」
笑い合う俺たちを、近くのクラスメイトたちが微笑ましそうに見ていた。
――この二人、いいよね。
そんな声が確かに聞こえた。
その一言が、胸にじんわり染みた。
◇
文化祭が終わって帰る頃、外には小さな虹がかかっていた。
雨は上がり、湿った風が心地いい。
「悠人」
「ん?」
「……今日からは、帰り道、毎日一緒に帰ってくれますか」
「もちろん」
「……よかった」
「湊、嬉しそう」
「そりゃ……嬉しいですよ」
繋いだ手を、湊が少し強く握り直す。
「悠人」
「うん」
「……大好きです」
「……俺も」
名前を呼ぶたびに、世界が少し明るくなる気がした。
名前を呼ばれるたびに、自分が特別になれた。
――これからもきっと。
この先、何年経っても。
夕陽の差し込む校舎を背に、俺たちは並んで歩き出した。
名前が、ふたりの合図になる。
そんな恋がここから始まる。



