翌週の月曜日。
 教室でプリントの配布があり、委員として手伝っていた。

「志摩、おまえ字きれいだよな〜。そんで真面目。絶対いい彼氏になるタイプ」

 クラスの男子・加藤が、肩を組んできた。

「やめろよ……!」

「じゃあ彼氏つくれよ〜。なぁ、ゆうと?」

「っ……! や、やめろっつって!」

「いいじゃん、名前呼び!」

「恥ずかしいから!」

 周りは笑い、加藤はノリノリで俺の肩を揺らす。
 まぁ、いつもの軽い悪ノリだ……と思っていた。

 ――ふと。
 廊下の方に視線を向けた。

 湊がいた。
 プリントを手にしたまま立ち止まり、表情が固まっている。

 そのまま、すっと視線を落とし、踵を返した。

「……湊?」

 呼んだけれど、声は届かなかった。



 文化祭の作業中も、湊はそっけなかった。
 会話の返しが短い。
 敬語が戻っている。

「湊、これ貼るの手伝って」

「あ、はい。……貼りました」

「ありがと。じゃあ次――」

「俺、後ろの作業やってます」

「え、ちょっと……」

 距離が、急にひんやりしている。

 昨日まであんなに近かったのに。

 名前呼びは冗談と言ったし、あのノリを見て勘違いしたのかもしれない。
 ……俺のせいか?

 思い切って声をかける。

「湊、ひょっとして……怒ってる?」

「怒ってません」

「じゃあ、なんで――」

「志摩先輩には関係ないです」

 ぶっきらぼうな言葉。
 けれど湊の横顔は、どう見ても“怒り”じゃない。
 苦しそうな、迷っているような表情だった。

「……湊」

「作業、戻ります」

 すれ違う肩が少し震えていた。
 それが見えた瞬間、胸が切られたみたいに痛くなった。